72.
俺達はそれをはっきりと見えるようになると、一瞬それを理解することを放棄してしまった。
矢の刺さったままのGを片手ではあるが、普段とは違い大事そうにそれをとても悔いているように走っているラガックとそれと同じくらいになぜだか悔やんでいる表情をしているヌーがあちらのほうから駆け出してきたのだ。
何を言っているか分からないと思うが、この現状は今までの疲れから来る何かしらの幻覚だと疑っていたほうが・・・これを現実と見ないでいいと思える。
そう思わなければ、この現実を受け入れてしまったら、あれが今のあの2人の様子が現実なのだとしたら・・・はっきり言おう。引く。
「「「・・・」」」
無言でその様子を眺める。三人は互いにそれを各自目視で確認したあとに長年の冒険者生活で培ってきた視線で伝える技術をその残る2人にこの現状から現実から打開できる案を縋った。
「幻術だと思うのよ・・・私」
そうアニスは伝えるが、それは2人も分かっているあの2人がGを持ちながら悔しがる様子なんて幻術じゃなきゃあり得ない。私達があの2人の幻覚を見ていてるんだ。そうだ、そうに違いないと2人は思っていた。だけど・・・・
「・・・・私自分に解呪使ってるのよね、うん。」
セラがそう言った。だが、そのセラにはそのラガックとヌーの様子がはっきりとキリックとアニス2人と同じ様子をその目に映していた。
そうその発言で3人が見ている現状が現実なのだと理解することに時間はかからなかった。だけど、それを受け入れることが・・・頭が理解できていても、長年連れ添っていたその仲間の様子を感情が現実を受けれ入れることを拒んでいた。
その間も2人はこちらに向かって走ってくる。
「あれさ・・・幻術だとしたら何を持っているんだと思う?」
「・・・さぁ」
「分からん・・・いや、分かりたくはない」
アニスがそう言ってはこの現実を受け入れようとしていた。自分たちがそれを拒んでいる間も2人はこちらに向かってくるんだ。2人は待ってはくれない。この頃になると2人の表情が悔しさ以外にも何かを恐れている表情も見て取れた。
「・・・私が2人にかかっている幻術を解呪するわ」
そうセラがもう時間はないと・・・この嫌な光景を現実とは受け入れたくはないが、2人の走っている速度や表情的にテントでは止まらないということを感じたから、2人を現実に戻さないと・・・。
念のためにアニスとキリックの体に触れて自分の魔力を流して解呪の呪文をかけておいた。
「わかった・・・俺はヌーも足止めする」
「私は・・・うん、ラガックよね・・・」
盾を持っているキリックより、身軽なアニスのほうが同じく身軽な斥候であるラガックの足止めにはちょうどいい。セラも先にラガックのほうから解呪したいと考えていた。逃げに徹されると魔法使いの自分がラガックには追いつけないと理解していたからだ。
キリックは盾を構えながら、アニスは抜身の剣を鞘に入れなおして、布でしっかりと固定し直してから構えた。セラは束縛系の呪文を詠唱して2人がこちらに向かってくるのを3人は待ち構えていた。
真剣な表情でGを大事そうに持ってこちらに向かってくる仲間・・・受けれたくないな・・・