70.
2人が駆け出していった数歩後に、その木の陰からその敵が姿を現した。
それは巨体であった。
その顔の皮膚は爛れていた。
その口は大きさ裂けていた。その隙間からは大きな牙が見えていた。そして、その口の中からは何かがその肌にしみ込みながら流れ落ちていた。
その鼻は潰れていた。だが、大きく動いてこちらの匂いを嗅ごうとしていた。
その目は大きくこちらに見開かれていた。こちらを獲物を認識したかのように
2人はそれらすべてを感じることはできなくても、頭で本能でこの魔物のことを理解していた。
勝てないと。
だが、踏み出した足は決して止まることはなかった。
正常な判断があるならば、逃げることが、ギルドにこのことを伝え聞かせることが大優先なはずだ。
だが、彼らは優しかった。
弄ばれていた友人の仲間の死体を見逃せるほど、非常な決断も、背を向け自分だけが逃げるという意思もなかった。
「俺が牽制する、その隙に頼む」
「わかった」
ラガックが足をゆっくりと動き続けて、いつでも攻撃がきてもいいように警戒しながら、その魔物の足に向けて、矢を放った。
すると魔物も、手に持っていたキリックの頭をこちらに向けて全力で投げてきた。
そのキリックの頭はラガックの放った矢にあたり、その勢いを少し弱めてラガックのほうへと飛んできた。勢いも弱まったこともあって、突然のことではあったが、ラガックは弓を投げて、キリックの頭のことを受け止めた。
そして、自分のせいで仲間の死体を傷つけてしまったことにラガックはその魔物に対して怒り、そして今もそれを見て笑っていてるような不気味な声を出して、こちらのほうに襲ってこない魔物の前から逃げることを優先した。
「ヌー逃げるぞ!」
そういう前からキリックの頭を投げられるのを目視で確認していたヌーは言う前からこちらのほうに向かって逃げて来ていた。そして道中にラガックが咄嗟のことで投げてしまっていた弓を回収してラガックに手渡してくれた。
走っている道中にラガックにはその抱えているキリックの顔から
「なんで俺を射ったんだ?仲間ダったロ?ナんで?なんデ?ナンデナンデナンデナデナンデナンデ」
ラガックからはキリックの顔からそんな幻聴が聞こえてきたような気がした。
すまない・・・すまないといいながらも、ラガックはダンジョンの階段のほうへと急いで向かっていた。
ヌーはそれを自分のことを、その場にいなくて一緒に戦えなかったこと。こんなことになってしまったことを謝っているんだろうと思っていた。
7月も終わり・・・ここからまた暑い日々が・・・