69.
そこから顔を出したのはキリックの顔であった。
2人がその姿に安堵したのもつかの間・・・なぜかキリックは森の中から出てこようとしてこない。ただこちらをじっと見つめているだけだ。
「おい、どうした!?」
何か様子がおかしい。そんなことを思いながら、キリックに二人は駆け寄ろうとする。だが、そこでキリックの姿しかないことに違和感を覚えた。
アニスとセラの姿が見えない。まさかと・・・歩幅が徐々に知りたくない現実から逃げるかのように狭まっていった。だが、その足が完全に止まることはなかった。覚悟はしていた。だが、そんなことはないと願い祈りながらもその足はゆっくりと、だが確実にその真実へと向かおうとしていた。
キリックだけなんて・・・盾を持っていたからか、その魔物は女だけを重点的にキリックの守りを貫通して狙いに行ったのか、複数で守る暇がなかったのか・・・様々な推測が頭の中に浮かんでいく。
その隠した全身の中には返り血か、2人の遺髪か、それとも目をそむけたくなるような2人の遺体か・・・その頭しかこちらに見せないキリックにどんどんとこの今ラガック自身が思っていることが真実であるかもしれないと感じてしまう。
「おい・・・なんとか言ってくれよ、キリック」
ただそのラガックの言葉にはアニスとセラがどうなったのか、どうなってしまったのか、なぜお前だけが帰ってきているのか、そんな様々な疑問を含みながら、何も答えずにこちらをただじっと見ているキリックに問いかけた。
そのあと数歩のところでヌーが違和感に気づいた。
「キリックはあんなに背が高かったか・・・」
遠くから見ただけではわからなかったが、近寄ってみるとヌーが言った通り、森の中から出ている顔の高さがおかしかった。
「まさか・・キリックも・・・」
あれがキリックの頭部だけ切り取って俺達をおびき出そうとした魔物の策略か・・・さっき返事をしないキリックがずっと無言だったのも死んでいたからだと理由がつく。だとするともうあの3人はもう・・・
「あの高さだとゴブリンだとしても上位種で、他のだったとしてもこんな外道な真似をできる知恵のある魔物ってことになるな・・・だけど・・・なぁ・・」
そう言ってはいても、ラガックはキリックのほうへと歩む足を止めはしなかった。
「・・・俺達二人じゃ勝てないだろうな」
ヌーも同様にこの想像通りだとしても、足を止めることも背を見せることもなかった。
「キリックの頭部を奪取したら、このまま階層をあがるぞ・・・荷物はすまんが置いてく」
そう言ったラガックにヌーはこう答えた。
「・・・ゴブリン、コボルトの肉を食べて、上まであがるか」
幸運にも2人は武器をこんな時でも肌身離さず握って進んでいた。
「いくぞ!」「おう!」
そう2人は暗闇に紛れてキリックの頭部をもっている見えない敵に向かって駆け出して行った。
この時2人は気づいていなかったが、足元にうっすらと霧が立ち込めていた。
風が・・・強かった・・・