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泥のダンジョンマスター  作者: ハル
255/255

243.




 お互いに無言の中に、目だけが相手の方をじっと見つめる。

 その相手から来る行動を見逃さないように。


 ここでなんの言葉もなく、ただ相手を止めるために剣を抜けば、相手も抜かざるを得ない・・・自分の命を守るために。

 だから、言葉で分かってほしい・・・でも、今彼の敵意を向けている彼の殺しを止めるだけの言葉が、俺の頭の中には思い浮かばない。


 『幼女を殺すことが正しいことなのか?』・・・きっとそれはこの迷宮の中においては・・・なによりも『肯定』されるべき『正義』なのだろう。


 たぶん、この迷宮の核だ・・・核であってしまうのだろう。

 俺達を閉じ込めている『悪』なのだろう。


 自覚があるかないかに関わらず、そこに悪意があるかないかにも関わらず。


 後ろに存在するのは、閉じめてしまった幼女の姿をした何かなのだろう。


「はぁーーー」


 こっちが視線を外さないのをずっと見ていたオルゴは長く・・・とても長く溜息を吐いた。

 自分のこれから行うことの罪悪感をなくすために心の中に無数の自分の『正しさ』という盾を作りながら、仲間と思っていた仲間に剣を向けなくて済むような言葉を頭の中に思い描く。

 そうして今の自分を形作り、言葉を紡ぐ。


「俺は魔術師の嬢ちゃんみたく学がねぇ・・・だから、ユウキ、今のお前が納得するような理由も言えるとも思えねぇし、そういう上手い感じの言葉なんて俺には言えねぇよ・・・だからよ、俺は俺の思いっきりの言葉をぶつける」


「・・・」


 決してお互いに顔を背けたりなんかしない・・・ただ今だけは何かではなく、俺の目をしっかりと見つめて、語りかけてくる。


「だが、俺の勘がそのガキが原因だと言っている。

 この部屋もその幼女も、今までの迷宮のように異質だ・・・きっとそいつがこの迷宮の核なんだろうよ・・・なぁ~悪趣味だよな?こんな風に核を作っちまう野郎はよ・・・」


 同意を求めるようにそう言葉を紡いで、数秒目を閉じる。

 悲しみのこもった・・・だけども、それ以上に決意をこもった目でこう告げてきた。


「だけどよ、それは倒さなきゃいけねぇ・・・倒さなきゃいけねぇ敵なんだよ。

 姿形がどうであれ、それは俺達を閉じ込めている原因だ。

 だからよぉ・・・ユウキそこをどいてくれ。

 おめぇがやれねェなら俺がやる。

 そいつを殺す罪を俺がお前の分まで背負ってやる・・・だから、何も言わずに、そこをどいてくれねぇか?」 


 まだ剣には手をつけない・・・だが、もう彼の目に迷いはない。


 彼は決めたのだ。


『1人の命を犠牲にする覚悟』を


「・・・できない」


 彼の覚悟に顔を背けたくなる。

 この決意をまともに受け止めるような正当性などない・・・ただの子どもの我が儘だ。

 あぁ・・・『正義』を目の前にして、自分のこの選択はどうしようもなく『間違っている』のだろう。

 でも、決して顔を背けたりなんかしない・・・その時点で俺の間違いを認めるようなものだから、背けたりなんかしてはいけないのだ。


「まだ何か可能性があるはずなんだよ!この子を救う方法が!!きっと・・・どっかに隠されているはずなんだよ!!・・・」


 根拠などない。

 可能性など・・・分からない。

 だけど、だけれども、この子を殺したくはなかった。


「ない!・・・そうとは言い切れない」


 その続く言葉に希望を幻視した。


「なら!!!」


「だが!!!ユウキ、あるかもしれない可能性にどれだけの時間を使う?

 ・・・それまで、置いて行ったあいつらがここに来なかったらどうなると思う!?

 たまたま俺は運良く勝てた・・・だが、あのフードの野郎の敵は明らかに格上だった、魔術師の嬢ちゃんの師匠だって気が変っちまうかもしれねぇ、他の2人も今も苦しい中で戦ってんだぞ?」


 ただのハリボテの希望はすぐに砕け散る。


「そんな中で俺達が彼女を救うためにかける時間で、あいつらが死ぬかもしれない・・・あいつらが大怪我するかもしれない・・・これにはな、俺やお前だけじゃねぇ・・・6人全員の命がかかってんだよ!!」


「・・・」


 あぁ・・・至極真っ当な意見だ・・・彼女を殺すか生かすかしか見ていなかった自分の考えの浅さを抉るような言葉だ。


 5人の命と・・・死者の幼女の1人の命。

 比べるまでもない・・・どちらが価値が高いのなど一目瞭然だ。


「俺だって、こんなことしたかねぇよ!!でもよ・・・でもよ、もうそいつは死者で、あいつらと戦っている奴らもう死者なんだよ!・・・もうとっくに死んじまってるんだよ!!

 なら、いいじゃねぇか・・・仕方ねぇじゃねぇかよ・・・なぁーユウキ、、、俺の選択は間違ってるってのか?」


「・・・間違ってない」


 この人に『間違っている』なんて嘘はつきたくはなかった。

 彼は正しい・・・間違っているのは俺自身だ。


「なら!」


「けど、だとしても!!譲れねェ、ここを譲ったら、俺は出れても・・・とても後悔してしまうから」


 手が届く・・・声が聞こえる・・・助けは求められてはいない。

 ・・・今も俺達二人を見る目には涙が、泣き声を漏らさないように口を覆い、ただ震えて怯える子だ。

 そんな子を殺す・・・?できないし、殺すことを黙って見過ごすなんかしたくない!!


「だが、そいつは死者だろう・・・とっくにもう死んじまってる、死んじまってるんだよ。

 助けることなんて誰にもできねぇんだよ・・・」


「だからって・・・殺すことがその子の救いなんてならないだろ・・・殺すこと以外で出る方法もきっとあるはずなんだよ!!」


 もう説得は無理だと悟ったのか、軽く舌打ちをする。


「ちっ・・・仕方ねぇよな、人間に来てりゃ譲れねェことの一つや二つくらいできてくるよな・・・

 はぁーーーー最初の地からともにここへと苦難を分かち合った友だ、殺しはしない・・・だが、少しことが済むまでは眠っていてもらおう・・・起きたら全て終わらせといてやるよ」


「・・・」


 何も返事を返さずにいると、まだこの迷いがあるとみて、悟ったのかこう続けた。


「俺はお前らを助けるために、・・・いや何よりも俺が生きたいから、そいつを殺す!!

 だから、遠慮なくかかってきな・・・青臭いクソガキが!!!」


 容赦なく彼は・・・拳で殴りかかってきた。

 書いていると・・・どんどんあれ書こうかな~って書き留めておいた言葉が・・・もうこの人にこんなこと言えない!!ってなってしまうことあるよね・・・。


 たぶんこの幼女が悪人ならすぐさま殺しておけるんだろうけど・・・ね・・・ゲームやったら忘れそうなくらいにあっさりと。

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