242.
「あれ?えー・・・騎士さぁーーあーオルゴさん?」
咄嗟に名前が出てこなかった・・・いや、うん、知り合ったばっかりだから仕方ないよね。
「すまないな・・・遅くなって・・・他の2人は?それにここは・・・こど、も?」
そんなことは気にした様子などはなく、こちらに向かって軽く頭を下げてくる。
部屋の内装を見渡して、迷宮の中なの???だろうが、子どもの部屋という違和感に目を細めていた。
そして、隅でこちらの方を警戒しながら見つめている幼女に気づいた。
「あーえっとーーそのーー」
な、なんて説明すればいいんだろうか!!!??
素直に最初からここに幼女がいましたとかはーーー駄目だよな!!!
俺がこの子の父親で・・・俺が今さっき産みました・・・うん、ないな。
考えが迷走している・・・深呼吸だ、落ち着け俺。
「この子が最後の・・・いや、少し決断が速すぎるな、何かしら上に行く手段か、ここから下降りる手段を探そう」
その声に一瞬剣呑な雰囲気を纏わせながら、だが、それを振り払い、さっきの俺と同じように部屋を探索し始めた。
気付かれたよね、うん・・・騎士さんがやってきた階段の方を見てみると・・・階段もさっきの洗われた扉すら跡形もなく消えて?いた。
扉はあったらあったで、騎士さんが扉を壊して、幼女に防ぎようのないトラウマを植え付けるより・・・あ・・・幼女ちゃんが扉を正しく認識しているなら、血まみれでここから出ていたら、幼女から見れば2人の死体の部屋から血まみれの殺人鬼が出てくるように見えるわけで・・・謎の洗濯されてて良かった。
・・・俺よりも絶対に魔物の返り血を浴びているであろう冒険者の2人が来る前に・・・出る手段を見つけなければいけない。
俺と騎士さんの2人いれば、また扉を開けようとしてもらって、幼女をそっちに行かせないように詳しくあっちの様子も見れるかもしれない・・・いや、本当にここが最下層だったとしたら、そんなことをしたって意味はないのだろうけど・・・少しでも可能性があるなら、可能性を掴みたい。
・・・でも、幼女ちゃんが出ようとして初めて俺は扉を扉として認識できたわけで・・・本当に出るためには幼女ちゃんの協力が必要不可欠で・・・そして、協力するということは必ず両親らしき2人の惨殺死体を彼女に見せなくてはいけない。
だったら・・・どうしよう?
少し見ただけだけど、さっきの部屋も赤い部屋でドアらしきものは俺には認識できなかった。
・・・誰も死なないために、彼女にとって辛いことを押しつけることが誰も死なないハッピーエンド?
家具の配置的に・・・あそこ以外のドアがあると思うところが俺には思いつかない・・・はぁーーー都合よく隠し扉なんて・・・普通の部屋にあるわけがないだろうし・・・。
騎士さんは幼女ちゃんのことは気にせずにスムーズに調べていく。
さほど大きくもない部屋なので、10分ほどで一通りのことは見終えた。
その間に悩んだり、本棚の本にヒントが隠されていないかと・・・パラパラと全部めくってみたり、机の中をささっと見てみたり、騎士さんがなんの遠慮もなく開いているクローゼットのことを見て、愕然としてみたりしていた。
そのせいか・・・幼女ちゃんとの距離が騎士さんの方が遠くて、こっちのほうが気分近い距離まで寄ってきている・・・これが!?鎧の不審者と顔面丸出しの信頼の差か!!
ちょっと・・・優越感。
結果?何の成果も得られませんでした~~先に行くしかないんだけど・・・先に行くしかないんだけど・・・とても気が進まない。
さっきからオルゴさんの視線の先には幼女ちゃんがいるような気がする・・・壁の先に空洞がないか、床や壁を叩いたり、ガラスを割ろうとしてみたり、さっきよりも敵意のこもった目で彼女を見つめているような・・気がする。
『ような』であり、自分の気のせいかもしれない・・・だが、その視線の間に割り込んで、今この場には関係のない話を聞く。
「そういえば・・・オルゴさん、結構早く来ましたけど、他の2人は?」
血まみれの2人がこなかったことに安堵はすることはあったが・・・オルゴさんは2人より先にあの騎士と戦ったはずだ。
「敵の騎士を倒して、すぐに階段を下りたのだが、着いた先がここだったんだ」
「へ、へぇーオルゴさんが来てくれて頼もしいですよ、それにしても倒すなんてすごいですよね」
あの別れた時は負けるつもりはなかったと感じてはいたが、あくまでも時間稼ぎ・・・いや、うん、本当はすぐに来てくれてうれしいしありがたいんだけど、、、なんか怖いんだよね。
「あぁ、それか。うむ、相手が少し古い型でな・・・それには少し弱点があってな、運良くそれができただけで・・・実力では俺の方が頭一つ分くらいには下だっただろう」
「・・・そんな格上の人に弱点をうまく付けるオルゴさんも凄いです」
「相手が同じ流派の古い人間だから・・・いや、死者だからこそできた話しであまり誇れるものではないさ」
とりあえず・・・いい感じの言葉が思いつかなかったからおだてていればいっか・・・そのあとは2人は何を言うでもなく、ただ向かい合っていた。
彼がその先に視線を外すことなかった。
こう言うときって、本の表紙がベトベトした甘い香りの毒だったり、照明の蛍光灯を割ったら、同じ種類の毒だったりがあるよね・・・。
幼女ちゃんと協力したらしたで、ドアを開けたら開けたで、家族の死体、ペットの死体、友達の死体、知り合いの死体、それと●■●■●に遭うから、幼女の精神が死にそう。