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泥のダンジョンマスター  作者: ハル
250/255

238.




 言われるがままに・・・いいや、うん、正直怖かったから、全力で走った・・・今も後ろでは激しい剣戟の音が鳴り響いている。


 目の前で人が死んだのだ・・・怖くないと思うか?


 そんなバカなことはない・・・テレビで見る人が死んだというニュースと、目の前で犯人に人が殺される場面どちらが怖いかなんて明らかだろう?


 力もない、死ぬかもしれないという恐怖に打ち勝って庇う覚悟もない。


 だから、もう何があったとしても、何が聞こえたとしても、後ろは振り返らない。


 振り返ったってどうにもならないことを、あの場所にいても、自分は・・・自分たちは邪魔にしかならないことを知っているから。


 逃げることしかできずに、ただただ必死に階段へと走った。


 ここで立ち止まったりしても、魔術師のように命を散らすだけと・・・自分が役に立たないということを自覚している。


 騎士がこのなかで一番辛いだろう、苦しいだろう・・・途中で言葉に惑わされ・・・護るべきはずの後衛に庇われたのだから。


 正気に戻ったはずの彼に最初に突きつけられるのは死に対する恐怖などではない、ただ目の前で死なせてしまった仲間への後悔だろう・・・たぶん・・・いや、きっとそう思っているに違いない。


 今までも罠から味方を守ってきたはずの盾が容易く斬られ、己が庇われ、仲間を死なす。


 それは結構つらいんじゃなかろうかと・・・妄想する。


 歪な楯を見るたびに『お前のせいで死んだ』のだと、責められているような気さえする・・・とか、いや、買い換えるか・・・普通。






 階段の前へ4人は到着した・・・今はもう戦闘の音も・・・こちらに届いてはいるが、その音の大きさから大分離れて、いいや、フードの人がこちらの為に遠ざけてくれているのだろうか?


 だが、なぜだか・・・コツコツコツと後ろからこちらへと向かってくる足音がする。


 ・・・敵は2人いた!?


 次に階層へ逃げ込むという選択肢は・・・もし敵がこちらに降りてきたら、挟み撃ちになって、こちらが不利になってしまう・・・当然足音の主の姿を俺達は確認しなければいけない。


 振り向けばそこには・・・魔術師っぽい魔術師さんがいた。


 幽霊は生者を倒すと・・・その死者を幽霊にしてしまうという噂が!!!あったような気がする!!


 周りの表情が見える2人はその階段へ来た人物に目を丸くしていた。


「ほんっと・・・危なかったわね、はぁーこれ(買うとしたら)高かったのに・・・」


 と店から分捕ってきたであろう指輪はボロボロに朽ちて、今にも彼女の指の中から消えてしまいそうだった。


 そこには指輪以外無傷な魔術師さんが立っていた。


「・・・生きていたのか」


 そう口から絞り出すように騎士さんが言葉にする。


「そんな死ぬかもしれないのに、出会って数時間の人間を私が庇うわけないでしょ・・・騎士じゃないんだから・・・でも、衝撃で意識が軽く吹っ飛んだのは誤算だったわ・・・ルトラって子が気を利かせて、大声で起こしてくれて、あの黒いのを遠ざけてくれたから助かったわ・・・でも、あんたね、庇われたんだから気を利かせて私を運びなさいよ」


 そう強気に言う・・・まぁ、命の恩人なんだから、強気にもなれるか・・・うん。


「むぅーそれは・・・すまなかった」


 基本的にそれが本物か偽物かなんて・・・分からない・・・出会って数時間しか経ってない人物の何を知っているのだろう?仕方ないじゃないか・・・うん。

 でも、本物っぽいんだけど・・・聞かずには尋ねずには居られなかった。


「・・・本物?」


「本物ってなによ・・・私は私よ・・・それに会って数時間の私たちがお互いに偽物かなんて疑いあっても仕方ないじゃない」


 それもそうだよね・・・そうして、5人になって先へ進むことにした。






 階段を降り切った先、そこはさっきのような街並みも、最初のような石壁のような場所ですらなかった。 


 空は高く、とても高く果てしない。


 太陽は全てを平等に照らし、暖かい。


 風は何物にも邪魔されずに、自由に私たちの肌を優しく撫でる。


 これは現実だ・・・そんな錯覚をしてしまうくらいには、全てがいつもどおりだった。


 ただ一点を除けば・・・その運ばれてくる風の匂いがと~っても鉄臭かった。


「・・・」


 4人も普通に気がついたようで、各々難しい顔をしている。


 この匂いを運んできた風の先へ進めば、この鉄臭さの原因に行きついてしまうだろう・・・こんな辺り一面障害物のない場所で殺人現場がどこだかも分からないくらいに離れているのに、そんなこの場所からも感じ取れてしまうような異常な血のにおいの原因へ。


 ・・・いや、ただの鉄臭い普通の・・・鉄の採掘現場かもしれない・・・一面見渡されるこんな場所に鉱脈?あったら・・・凄いよね~~~うん、すごいすごい・・・


 さっきは一面真っ赤に染まっていたのに・・・近くても全然鉄臭さなんて感じなかったのに・・・今は新鮮な匂いだから、感じるのかな!えへ!・・・それって、つまり、ついさっきできた事件現場が周りに複数あるってことだよね。


 ・・・逃げたい。


 さっきと同じように後ろを振り返ってみても・・・元来た階段はあとかたもなく消え去っている。


 ・・・逃げれない・・・なんでこんな階段さんは消えるっていう仕事を全うするのかな?・・・もうちょっとボイコットして、逃げ道くらい確保してくれてもいいと思うんだけどね。


「・・・む?あちらに人影のようなものが見えた気がしたのだが、んー俺の気のせいかもしれん」


 ・・・血の匂いのほうに人影が見えたって・・・うん、うん、、、そっちに進むしかないよね。









 騎士さんはあんなに後悔はするだろうか?


 と書きながら、疑問に思ってしまう。


 この世界にも当然犯罪者がいる。当然のように魔法や不思議な道具やらがある・・・戦争で殺し合うこともある。


 魔物だって、迷宮暴走なんて理不尽すらある。


 失っているはずだ・・・それは家族かもしれないし、友達かもしれないし、共に闘った戦友かもしれない。


 そして、ぶつけるはずだ、怒りを、悲しみを、憎しみを


 犯罪者に、敵兵に、魔物に。


 まぁ・・・この場合ぶつけたら騎士さん死ぬけど・・・

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