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泥のダンジョンマスター  作者: ハル
244/255

232.


 黒髪は刃のないほうをこちらに向け、振り下ろした剣はマリウスに当たることはなく、その攻撃は空を切る。


 すかさず、マリウスは黒髪の首に向けて、刀による突きを繰り出す。


 だが、その攻撃も黒髪の方には当たりはしなかった。


 突きから、首を斬り落とそうとするが、黒髪に当たることはなかった。

 その髪すら刃に触れさせることなく、男は体勢を低くし、その攻撃を回避。


 そのお返しとばかりに低くした体勢から、足技を繰り出し、マリウスの体勢を崩そうとしてくるが、地面を蹴ることで、マリウスも回避する。


 後方に大きく跳躍することで2人は最初の位置取りのような距離になっていた。




「・・・」


 今回は殺す気で技を放った。

 お互いがお互いを認識した状態ではあったが・・・それは現状で相手を殺しえる攻撃のはずだった。


「なぁ~もう戦闘やめて、話をしようぜ?ほら、ある程度俺の実力も分かっただろ?」


 男はそんな剣を遊ばせながら言い放つ。


「・・・まだその首を斬ってませんので」


 そんな戦闘時に余裕ともふざけているとでもとれるような行動をしていたとしても、今その相手の間合いに踏み込む気にはなれなかった。

 踏み入れば、斬られる。

 そんな漠然めいた直感がマリウスの脳内を支配する。


「いやいやいや、俺もそんなことされれば死ぬよ?死んじゃうよ?マジで」


「死にたくないなら二度とここに来ないでくださいよ」


「だから、俺だって理由がな~~「砂嵐(サンドストーム)」ある、うぇっ」


 会話する間に心の中で詠唱し終えたそれを相手の言葉を待たずに、発動させる。


 この魔法の正式な詠唱ではない。

 魔力も、身体から漏れ出させないために、相手に悟らせないために最低限に。

 そのために正規の魔法よりも効果も時間もとても短い。

 だが、この室内の中だけを砂で視界を最悪の状態にする程度のことはできる。

 それで相手を命を絶つくらいはできる。




 最初のナイフ投げからの追撃で仕留められなかった。

 ・・・でも、それはダンジョンの中で相手も油断はしていなかっただけだろう。

 マリウスを認識したその後の攻撃もそのことごとくが避けられた。

 ならば、僕がもう一度隠れよう。


 あなたの認識の外側へ


 そして、あなたに這い寄ろう。

 気配を殺し、己を殺し、そしてあなたを殺す。

 わずかに相手から漏れ出していた魔力を辿り、音を殺し、呼吸を殺す。


 そして、辿りついたその先で刀を振るった。

 風斬り音だけが砂音に交じってマリウスの耳に届いた。

 だが、確かに相手を斬ったはずなのに、何の手ごたえもなかった。


 その場所を見れば・・・相手の薄い魔力だけがその場に残っていた。

 どれだけ探っても、それ以外に他の魔力を感じることはできなかった。


 そして、もうすぐで砂嵐が終わるその頃に何も感じなかったはずだ・・・何も殺気も気配も魔力も・・・だが、身体が直感的に後ろを振り向いた。


 彼がこちらに向けて剣を振るおうとしていた。

 

「・・・くっ」


 咄嗟のことで左腕が頭をかばい、その剣の衝撃をもろに受けて、地面に膝をつく。


 魔力で強化された上段からの一撃をだ。


 かばった左腕は骨折・・・はしているだろう。


 刃が付いている方だったら・・・良くて3分の2の肉と骨がボロボロ。

 刃がなくとも殺す気だったら、腕の骨は粉々になっていただろう。


 こちらをバカにしているのか、それともまだ交渉の余地があるとでも思っているのか、その攻撃は峰打ちしかも、絶好の機会だというのに追撃すらしてこない。


 あまりにもふざけている。


 僕は相手を殺そうとしているのに、相手は僕を生かそうとしている。


「ただ俺も残像みたく魔力を残して位置を誤認させるくらいできるわな・・・あんな視界悪い時にただぼーっと突っ立てられんわな~カッコよくカウンターみたくできるならよかったが、俺にそんな技術なんてのはねぇから、騙くらかしてもらいましたわ。

 その腕じゃ、もう俺を殺すのは無理やで、回復する隙なんて与えんわ・・・なら、諦めて、うちの同郷解放してもらおうか

 これでも首を縦に振らんなら、お前を殺す」


 まだ自分の優位になっている状況で交渉をしようだなんて甘いと奪えばいいだろうと、油断している隙に・・・と男の方を睨もうとした時に気づいた。

 その目は今までの何を考えているのか分からないようなへらへらとしている表情ではなかった。

 冷たく、鋭く、何よりもその目は暗く淀んでいた。




「はははははは!!!あっはっはっは・・・はぁーそうですね、ごめんなさい、あなたを少しばかり見くびっていたのは僕の方だったかもしれません、だから、次は本気です」


 殺す覚悟なんて相手はとっくにしていた。

 こんな相手に生半可な不意打ちをしたとしても、僕が斬られるだけでしょう。

 僕を相手に殺さないように手加減をしながら、戦えるくらいには殺し合いに慣れていた。

 突然笑い出したマリウスのことを男はとても嫌そうに見ている。

 左腕を庇いながら、立ち上がる。

 峰打ちばかりで、糞ふざけたような攻撃をしているこの人は・・・格下ではなく、同格でしたか、今のこの状況的に格上ですか。

 僕の一番慣れた技でやっていて、それは本気ではない・・・ただ今の攻防では明らかに僕の負けですね。

 無意識のうちに相手を見下していたことに気づき、自分では真剣勝負だと思っていたのに、自分が最初から本気ではなかったことを全力を出していなかったことを恥じた。

 左腕を人形操作の応用で無理やり動かす。



「もう・・・関係ないです、ただ僕があなたを殺したいから、殺します」


 マリウスの髪が鮮やかな黒髪から灰色に、翡翠色の瞳が金色に変わった。

 男の方もマリウスの雰囲気が変わったことで、剣から黒い靄が溢れだす。


 お互いに言葉など要らない。

 ただ相手を殺すという殺意を持って、灰色と黒が世界を染めた。

 

 新年明けましておめでとうございます~。


 戦闘描写をうまく書ける人って変態なんじゃないかと思った。

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