231.
階段を下りてきたその姿を視認できた瞬間に、マリウスがナイフを投げる。
「はぁーーーいや、なんでいきなりこうげ、おっと、最後まで言わせてくれよなぁ」
それを危なげもなく、最小限の身体を逸らすことで彼は避ける。
その後にすぐそばまで走り間合いの中に入っていたマリウスからの攻撃も難なくかわし、手に魔力を収束したのを見て、一定の距離を開ける。
「チッ」
最初の2撃目で倒せなかったことで魔力感知に優れていて、近接戦闘もある程度は・・・いえ、マスターよりも断然にできますよねこの人。
・・・掠ってもいませんでしたし、毒のナイフもあんまり意味ないですかね。
「いや、待て待て待て」
こちらの背丈を見て、油断しているのか・・・相手はせっかく収束していた魔力を霧散させた。
次はどんな手段で攻撃をしようかと、相手はどんなふうに仕掛けてくるだろうか、相手は今何を考えているのだろうか?そんなことを思考しながら、相手の話を聞く。
油断があれば、そこに隙があれば、どんな友好的な言葉を並べようとも、殺す。
「・・・」
いったん・・・目に見える、いえ、そうでした、魔力にも気をつけながら、耳を傾ける。
「おれ・・・おまえら・・・はなし・・・する?」
「ふざけてますか、殺しますよ」
その自分よりも小さな背丈同様に少し高い声で話すマリウスの姿に少し目を丸く驚かせながら、言葉が通じることが分かるとさっきとは違う風に続きを話す。
「いや、ほんっとに違うからね、馬鹿にするとかそういうことないからね!ほら、あのさ・・・あぁ、神に誓ってもいい。
うん、俺らの言葉が伝わらない奴等とか結構いるから、こういうね・・・うん、話し方になってしまうわけで、決して君をバカにしていたり、ふざけているわけじゃないんだ。
僕は人探しをしていて、君と争いたいわけじゃない」
・・・人探し??
イオルでしょうか?いえ、両親とも死んでいましたし・・・それ以外で人間で今生きているのは居ませんし・・・いえ、元盗賊な2人だったので、それもどうでもいいことですね。
・・・ならば、探しているのは私かマスター、わざわざ人探しで最下層まで降りてくる意味もないですしね。
「僕らが信奉しているのはくそったれな女神どもじゃなくて、あなたたちが言うところの邪神です」
別にそんなことで神が怒る気はしませんが、刃を抜こうとする態勢を取ろうとしても、相手は腰に差している剣を構えずに、両手を前に出し、『やめてくれ』と手で制していた。
「うわぁ・・・ちょっと、マジ、たんまたん、、まっ!!」
居合の要領で斬っても、なぜだかギリギリで避けられます。
・・・回避系の何かしらですか?その派生に魔力を感知する能力などがあるようなものでしょうか?
ならば、避けられないように攻撃の範囲を絞らせないか。
避ける隙間すらない全方位攻撃か。
「あまりふざけたことばかり言っていると首を斬り落としますよ」
「おっとと、そういうわりには態勢整うのを待ってくれてるじゃ~ない」
尻をパタパタと払っていたその姿はいつでも殺せるように感じる。
感じるだけで実際に殺せるという確信が持てない。
「隙があからさま過ぎて手を出すのがためらわれるだけですよ、勇者様」
そう言うと彼の表情は一瞬だけ歪んで、すぐに元に戻った。
「ふふっ・・・俺は勇者なんかじゃねぇよ・・・ただの、そうただのどこにでもいるはずの一般市民だよ」
「そうですか?ですが、信じられないので、死にたくないなら、すぐにこのダンジョンの中から出て行って二度とここに来ないでほしいです。
勇者様ではなく、一般市民なら逃げ出しますよね?」
逃げるとは思ってはいないが、魔力をわざと外へ漏れださせ威圧する。
「いやぁ~~ねぇ~俺もちょ~っとダンジョンコアには興味なんかねぇが、それよりも大事なもんがあるって、聞いて引けねぇんだわ」
ここでやっと彼は自分の剣を抜いた。
「お互い引けないということでしたら、これ以上の話しあいも無意味でしょう。
さすがに剣を構えていない相手をなぶるような趣味はなかったのでよかったです、剣を投げ捨てて背中を向けて逃げるのなら命だけは助けますよ」
さっきまでのは・・・うん、すぐに治療すれば、即死はしない程度の威力の攻撃しか出していないし、うん。
戦闘をする前に倒した方がとても簡単で、いいじゃないですか・・・。
「斬れば分かるって・・・・ハァー分かりたくないけど、分かるようになるって悲しいねぇ~ほんっと」
目つきと雰囲気が変わる。
互いを数秒見つめあった。
その後にどちらともなく動いた。
メリークルシミマシター