229.
「ふ~♪ふふーん♪」
パソコンの光だけが辺りを照らす暗い闇の中にそれはいた。
「あのクソ龍はぜんぜーん生きてますね♪チッ・・・別に殺せると思ってませんでしたけど、充実してるじゃ~ありませんか~、へぇーふーん、死ねばいいのに♪」
そのあとまたカタカタカタとパソコンのキーボードを叩く音が響いたと思ったら、その口はグニャリと歪む。
「あっーふーん♪よし!送ろうっと」
楽しそうに画面を見て嗤う。
「うんうん、同郷の人でもあるし、それも弱い人種?でもあるよねーそんな人に救いの手を送ってあげるって、僕ってば、超絶カッコいいね~」
「この子もな~面白いよね~もっとこう火薬とかのレシピとか、銃とか色んな武器の作り方をちゃん~と用意してあるのにそれに手をつけないし~」
今画面の向こうにいるであろう彼に向けて思う。
「ゲーム、ネット、お菓子~ん~平和平和~ほんっとくだらないくらいに平和だよね・・・あの邪魔龍もまったく戦争に使うようなそぶりも見せない~つまんないな~僕は退屈すぎて死んじゃうよ」
そんな言葉とは裏腹にそれの笑みは顔に張り付けたままだ。
あの龍が命令を聞くはずがない。そんなことをやっていたのなら彼はもうとっくに死んでいるだろうと。
そんな分かり切ったことをそれは頭に浮かべていた。
「ダンジョンマスターは王なのに~ダンジョンという領地をもった孤高の王~何もかも自分の思い通り~世界は自分であり、自分は世界、傲慢不遜俺は王様だ!!っていうのも面白いと思うんだけどな~」
昔はもっといた。好戦的な災害が、無慈悲な災害を起こす王が。
自分にも殺意を向けるような面白い愚か者たちがいた。
でも、み~んな、みんな死んじゃった。
あるものは1人という孤独の果てに自殺した。
あるものは人を愛してしまい、自分の罪を清算するために捕まりに行った。
あるものは人類の敵として、人種の英雄、異世界の勇者たちに殺された。
みんなみん~な、僕は大好きだった。
だけど、みんな死んだ、殺された。
でも、それに恨みなんてのはない、悲しみなんて感情もありはしない。
それはそれ~これはこれ~。
自分がいいことをしたのならいいことが、悪いことをしたのなら悪いことが帰ってくるのは当たり前のことだ。
殺すなら、殺される覚悟をってね~まぁ、未だに殺されず悪いことをしてものうのうと今も生きている子もいるけどね。
「誰かを殺したい、誰かを傷めつけたい、誰かの上に立ちたい、人の欲望なんてありふれるほどあるのに~王は神だ、その土地の天上人だ~法律は自分であり、常に自分が正しく自分のすることこそが正義だと言えるのに~」
「力を振るわない、害意もない、奴隷はそもそも買わないし、下僕にも横暴にならない~はぁ~~枯れてるんじゃないの?この子精神的な意味で」
「このくらいの時間がたてば、今までの子のほとんどは人であるだけで殺して奪って犯したのに・・・最初の高い買い物がゲームなんて笑っちゃうよ~~」
「でも、いいね~♪うん、凄く人間らしくていいよ~今までの子も欲望に忠実で実に人間らしかったけど、この子もそれとは違う我欲に忠実でいいね~うんうん、それはそれでいい!」
だが、何も起こらないのはつまらない?
修行があれば、そのあとは強敵との戦いだ。
平和があれば、次に起こるのは戦いだ。
平和だけの物語なんてつまらないだろう?僕は退屈で死んじゃいそうだよ。
誰かの死があれば、誰かとの出会いがある。
つまり、誰かとの別れがあれば、誰かとの出会いがなければいけない。
うん、彼を動かしてくれるようなそんな運命的な誰かとの出会いが・・・
そんな現代文化に染まりきった彼に運命的な誰かなんて、きっと二次元の中にしかいないのかもしれない。
そして、影は一つの物語を手に取る。
これから誰も介入しなければ、ただの悲劇で終わる物語を。
「そうだ、うん、このシナリオと繋げられるよね?んーわざとあの子の身体があっちに行かせて、こっちに繋げてあげるのもいいかもー、そうだ!これに合わせてあっちの子の到着が遅れるようにしないとな~大変大変~」
楽しそうに影は用意するのは舞台だけ。
踊るのは何も知らない子どもたち。
それを見て影は、どんな悲劇になろうとも、喜劇になろうとも、彼はその演目を楽しく見れるだろう。
どの役者も生きて、人間をしているのだから。
そう言いながら、空中に煌めいた何かを動かす。
「むむむーそれだと間に合わなくなるかもしれないから ちょっとだけ細工をして、あの子もいるし、ネタバラシの準備もしておこう」
主役がヒロインに会わねばいけないだろう・・・主役が敵と戦わなければいけないだろう。
・・・簡単すぎてはつまらない。
だけど、何もかも思い通りに詰めすぎれば、見ている僕がつまらない。
サイコロで出た目で何かの縁を結ぶ、その目で誰が結ばれるのかなんて知らない。
それを数度繰り返す。
「そうだそうだ、サプライズで行くんだから、ついでにお土産に新作の種もあったなーんーーーやっぱりこれはボツかな、無差別に振りまくのは趣味じゃない」
そう手のひらにあった何かを暗闇の中に投げ捨てる。
「そうだ、アマちゃんに連絡連絡っと♪
そうそう、最後にお菓子プリーズっとー今月はどんな新作が出てるかなー酸っぱいのもいいけど、甘いのも捨てがたい!
へ!?あれ!この商品もうすぐ製造終了!?
こうしちゃいられない!買いに行かなきゃ!!」
影は手に持っていたものを操作して、焦ったと思ったら、すぐに動くと、どこかへと消えていった。
そうして部屋の中にはただ無差別に光を辺りに照らすゲーム終了の画面だけがそこには残されていた。