221.
「どこ向かってるんですか?ゴブリン達が畑の野菜を収穫しているようにしか見えないんですが・・・なんか見たことのない野菜の魔物が増えている気もしますけど・・・それにそれほど価値があるように見えないんですけど・・・」
「まぁまぁ~ついてきなさいな~ほっほっほ」
「・・・いえ、ここでイライラしてても仕方ないですね、はいはい、ついていきますよ・・・何に使ったか暴くまではですけど」
ついたのは農場のある一軒家・・・イオルが寝る用の小屋・・・というより、ダンジョンコアに作った部屋よりもこっちの部屋に居座るようになって、だいたいがもうここが住処となっている。
その一軒家を通り過ぎて、僕がイオルがあの家に住むようになってから、人形を移すために作った小さな倉庫の前にマスターは立ち止った。
もともと倉庫に盗みに入る人など、魔物など、ダンジョンの中ではいるはずもなく、いたとしても、倉庫に入っているものはもうほとんど使えなくなったようなものばかりで、盗む価値すらない。
唯一僕の作った人形もコントローラーが今は商会の方の知り合いのところに送っているし、僕の指導もなく、独学でこの人形を動かすことができるほどの逸材がいれば、正直倉庫の肥やしになっているし、あげちゃってもいいんじゃないかと思っている。
そんな倉庫の扉を開けて中へと入っていくマスター。
「・・・?・・・本当に何を買ったんでしょう・・・買ったとしても、こんなところに置くなんて・・・あの価値を置くなんてありえませんね」
若干マスターの見る目に軽蔑の目線が混ざり始めたころに中に入って見ると、マスターが地面に手をついていた。
ま、まさか・・・イオルや他の魔物がみれないところで土下座?!と思っていたら、何やら地面を探っている。
「あっ!」
そう声をあげて、マスターが何かをすると、ゴゴゴゴッ!と音を立てて、僕の立っていた入り口の地面が横にずれる。
ちょっと驚きながらも、マスターがいる地面の方へと飛ぶ。
「ドヤァ」
「・・・」
そこに見えるのはどう見ても階段である。
隠し階段だ・・・いつの間にこんな仕掛けを作っていたのか。
どうせなら、ダンジョンコアからつながっている農場の小屋よりも、もっとダンジョンに階層をふやして、こういう仕掛けを作ればいいのにとは・・・少なからず思ったが、そんな気持ちを知らずにマスターは事前に持ってきていた懐中電灯で階段を照らしながら、下りていく。
「灯り」
階段に等間隔で灯りを設置し、進みやすくした。
「・・・」
無言で若干肩を落としながら、先にマスターは階段を足早に降りて行った。
その階段の景色が終わり、見えてきたのは一番最初に目に映ったのは緑だ。
緑一色邪魔な木など存在せず、どこまでも地面の緑と空の水色が視界の中で広がっていた。
「草原ですか・・・」
広さは・・・かなり広いですけど、本当に草以外、魔物一匹もいない。
最近は農場の方でも畑の広さを無駄に広くして、もっといろんな種類の野菜を育てようとしているからか、既存の種類の育てているところを減らして植えればいいのにと考えないでもないですけど。
空き地がなくなってきたから、新しい稽古場?いえ・・・こんな無駄に広くなくても、別に訓練室くらいのもっと狭くてもいいんですけど・・・
それに農場の倉庫からつながるんじゃなくて、ダンジョンのほうに作ってくれた方が嬉しいんですけど・・・ここに入ってこれるの僕とマスターとイオルくらいじゃないですか・・・侵入者ならここ来る前にダンジョンコア掠め取ってますよ。
頭の中でそんなことを思いながらも、まだ・・・到底マスターが使った金額に見合うものがない。
ここで全てを忘れてもらおうとしている?・・・そんなことじゃ・・・額が額だけに・・・許しませんよ。
そんなことを思っているとマスターがポケットから、何やら笛のようなものを取り出すと、息を吸い、思いっきりそれを鳴らした。
その笛の音は聞こえない。
だけど、遠くから羽ばたく音が聞こえた。
遠くからこちらに向かってくる黒い点を見つけた。
肌がざわついた。
自分よりも強い何かが近づいてくると。
黒い穴に手を突っ込み、自分の得物を取り出そうとした時には、全てが遅くそれは目の前に座っていた。
あれだけ遠くだったのに、その降りてきた勢いを気配を感じさせずに座っていた。
目の前の化け物は強さの次元が違う。
「・・・」
頭の中が真っ白になる。
なぜこんなのがここにいるのか・・・なぜマスターの命令にしたがっているのか?なぜ・・・こんなのがあれだけの金額で買えているのか・・・訳が分からない。
「龍・・・それも高位の・・・ありえません・・・」
ダンジョン商会に・・・高位の龍種など売っているはずがない。
捕獲?無理だ。
生死をかけた戦いを是とする龍がそれを赦す?ありえない・・・
もしだ・・・もし捕獲していたとしても、確実にそれを倒した勇者以外になつくはずも、背中に乗せるはずもない。
・・・それがどうだろう、その龍の首にマスターがぶら下がっている。
あなた、僕の稽古についてこれようになってきているんですから、強さの次元くらい分かってきてもいいはずなのですけど、なぜそこまで無警戒にそれにぶら下がれるのですか・・・意味が分かりません。
はぁ・・・僕は今日もう・・・いえ、最近ずっと疲れたのかもしれないですね、部屋に戻って寝ましょう。
我が宝を奪う欲深き盗人には死を、軍にして挑む強さを知らぬ愚者には絶望を
個にして、我が武に挑む馬鹿者に試練を
敗者には死を、勝者には富と栄光を