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泥のダンジョンマスター  作者: ハル
221/255

209.


「こんにちわ」


 その声は澄んでいて、その顔は笑顔だ。


 友人に向けて、知人に向けて、家族に向けて・・・そんな他愛もない挨拶だった。


 ありふれた日常の一部だけを切り取って、場違いなダンジョンの中に置かれたような不自然なそんな光景。


 こんな怪しさ満載なこの状況で、そんなことを、そんな地上と同じように何もここには危険はないのだと思わせるような、そんな穏やかで温かい雰囲気と言葉。


 その言葉に一瞬だ・・・ただの一瞬気を緩めただけだった。


 その人には、その一瞬の気の緩みは十分すぎるほどの時間だった。


 ただ彼の身体が飛んだ。


 跳んだのではない、飛んだのだ。


 地面から足が離れ、地面と平行に飛び、その勢いを保ったまま近くの木に激突した。


「‼」


 それは肺から全身の空気が抜けたような衝撃だった。

 声を上げたいのに肺から空気が吐きだされずに上手く言葉にならず、空気を入れたいのに肺が空気を拒み、苦しい。


「太郎?!」


 1秒にも満たない間に仲間が吹き飛ばされるという異常な事態。

 味方の状態を確認して、敵に注意を向け、その相手を弓などで牽制をするなんてこと・・・ただの魔物や人相手なら彼女ならきっとできていただろう。


「余所見しようとするなんていけませんよ?」


 彼女の前髪が宙を舞った。

 見えなかった、反応できなかった、魔術かそれが剣技なのか分からなかった・・・何もできなかった。

 その言葉のあとに、『今からあなたを殺します』なんて明確な殺意の意思を示すかのように、鞘からその刀身を自分に見せつけるように引き抜いた。


「あんた何なのよ!?」


 足掻かなければ、足掻かなければ、彼女は自分を殺意をもって、抜いたそれから自分の命は刈り取られるだけだ。

 理不尽にそれを受け入れることを拒むからか、ただ自分が狙われる理由が知りたいだけか、他の仲間が、太郎が起き上がるための時間を稼ぐためかそんな言葉が弓矢と共に出てきた。


「それに答える必要ってあります?それとも問いかけて時間稼ぎとかですか?」


 無感情に無感動に、その弓矢を避けながら、自分にとっての死神が寄ってくる。


「くっ!」


 後退しながら弓を番えるスピードと、こちらの命に相手の剣が迫るスピード。


 こちらのほうが一歩だけ早かった。


 だが、射たはずの矢は、それに斬られていた。


 峰打ちで足を払われ、倒れたところに首に刃を当てられた。


「言い残すことは?」


 弓を番うことなんてできず、魔法なんて言おうとした瞬間に彼女の首と胴体は永遠に別れることになるだろう。


「・・・・」


 その言葉を紡ぐよりも先に異変が起きた。


 ドォォォォォンと辺りに轟音が鳴り響いたのだ。


 魔人を観察していた頃よりもより大きなで、より派手に、より大きな暴力となって、それは現れた。


 泥だ・・・大きな大きな泥、それが大きな壁となり、こちらへと大きな暴虐となって、何もかもを押しつぶす暴力となって、差し迫ってきた。


「はぁ~あれは形すら捨てましたか・・・」


 そんな小さなため息とともに吐きだされた言葉。


 興味はあちらに移り、こちらへの興味が消えた。


 幸運にも彼女の首の皮一枚繋がった。





 誰かさんの内心。


「こんにちわ・・・あのエルフが下手人ですね・・・邪魔な男は肋骨数本犠牲にしてもらいましょう」


「・・・僕に目を向けないなんて・・・速攻首を斬りましょうか、いえ、ここは余裕を見せるべきですね」


「名前教えるわけにも・・・ダンジョン所属を言うわけにも・・・というより別に理由を知ったところで僕があなたを害するという行為は代わりませんし、理由も知らずにただそこに自分より強い暴力があったから死ぬなんてことはありふれていることだと思うんですけど・・・あの魔人のあれももっと封印ではなくて、精霊の力を大いに借りる一射ならよかったんですけど・・・あんなに周りに影響を残すようなやり方されれば、誰だって怒りますよ?一時点に精霊界の門を開いて、そこから風妖精(シルフ)を溢れさせるなんて馬鹿なんですかね?地上と同じような森・・・?でしょうかね、それに見えるかもしれませんが、ここは閉ざされたダンジョンですよ?・・・つまり勝手に妖精は帰ってくれないわけですよ?」


「そんなところに風妖精(シルフ)を大量に召喚されて、後始末なんてされないで放置されるとか、僕の仕事増やして、過労死させたいんですか?地上なら風に乗って、世界に巡り還りますけど・・・ここはダンジョンなんですってば!!!・・・・はぁ~、今更起きたことを言っても仕方ないですよね、見てたら邪魔するように誘導していたんですけど・・・運がいいのか悪いのか?まぁ・・・これから私の八つ当たりで殺されるのですから運が悪いのでしょう?・・・ん~仲間1人死んだだけなら、冒険者パーティが魔人と遭遇したにしては運がいいですか・・・ね?」


「あれ・・・まだ生きてたんですか・・・そもそもあれを生きてると表現するのは正しいのでしょうか???・・・ん~この階層に上がってから置いていったあのマスターが探していた人たちは無事でしょうか?・・・それとあそこで何か乗り物に乗って、こっちで全速力で向かっているあれは・・・・・・・マ、スターです、よね?」

 首チョンパできるけど、ただの舐めプ・・・いや、強者の余裕?愉悦?遊び?


 ・・・殺す予定の子が・・・また生きた・・・裏でダンジョンで殺される人はいるのに・・・

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