208.
「・・・・え?」
あの嵐の柱から数分くらい歩いたところで、ルルラがそんな声を上げて、後ろを振り返った。
「ん??」
俺は突然足を止めたルルラに軽くぶつかりながら、『何してるんだ?』・・・と訝し気な表情でルルラを見つめる。
「な、なんで?!!」
そんなことを焦ったような慌てたような表情でそんな言葉を吐きだす。
そうして、俺もなんだ?なんだ?と後ろのほうに違和感がないかを探してみる。
さっきまで感じていた風の感覚がない・・・ない?
展開しても無意味だと今の今までやってこなかった魔力感知であのバカでかい魔力の塊を感じようとしたのだが・・・これがさっぱり見つからない。
「おかしいおかしいおかしい、どこも起点が崩れていないのに、風が消えてる?だめだだめ、ちがうちがうちがう、、、なんで?なんで!?なんでよ・・・なんでなのよ」
ブツブツと手を噛みながら、ルルラは思考を巡らせる。
こんな焦っているんだろうから、まぁ・・・ルルラの中では・・・あの嵐柱はこの程度の移動時間では壊れるはずがなかったということだろう。
「落ち着け私、落ち着け落ち着け落ち着け・・・そうだ、今すべきことはなに?」
そんな横にいる俺は・・・何かしらの異常事態が起きているんだろうと・・・羽織っていた上着をまた脱ぐことになるのかなんて若干くだらないことを考えながら、いつでも取り出せるように煙玉などの準備と自分があとどれくらいの魔力でどのようなことができるかを考え始めた。
「よし、分からないわ、太郎!ルドとエフィーを回収して急いで逃げるよ!!!!」
顔にパンッと気合を入れ直しながら、そんなことを言い出した。
「お、おう」
右手を痛むくらいに強く握りしめられながら、森人による森歩きの技術と呼ぶべきか、今までもよりも格段に速く進んでいく。
今までは人間である俺ができる森での最高速度にルルラが合わせてくれていた形だったのが、今はルルラの速度に強制的に合わせられている。
この異常事態に、歩く余裕があまりない中で見たその手を引く彼女の表情は酷く焦っていた。
「遅い!!もう大人しくしなさいよね!!」
ルルラに俺の足の遅さに若干の苛立ちを含まれながら、言われた・・・そんな無理なことを言わないでくれよ・・・こんな木々を生い茂る中そんな速度で走っていたら、確実に木にぶつかる・・・というか、今もギリギリでぶつかりそうだよ・・・。
そんな文句を言うと・・・彼女は俺をお姫様だっこして運ぶ。
・・・・あ~れ?
やだ・・・男前・・・なんて言ったら、何胸見ながら言ってんのよ!!といつもなら全力で殴ってくるだろうが・・・この状況で茶化すような気はしない。。
そんなくだらないことを考えていても、とてもじゃないが、彼女に言う気にはなれなかった。
なぜなら、お姫様抱っこから見える彼女の顔はとても険しかったからだ。
さっきまでの走りが地上に出るまでの余力を残しながら、後ろを気にして、ルドたちのことを心配しながら走っていた。
だが、今は、後ろにいるであろう何かを見ないふりをして、全速全開で余力など気にせずに俺をお姫様抱っこしながら、森の中を疾走する。
そして、その走りをしてから、少ししてから、ある程度開けた場所に出た。
意図してこの場所に来たわけではない、ルルラがルドとエフィーのところに一直線で向かおうとして偶然この場所を通ってしまった、ただそれだけの話だが・・・だが、そこには何かがいた。
今さっきの泥の化け物のようなものではない。
俺のような偽物の黒ではない、遠目から分かるような鮮やかな黒髪。
ダンジョン内でその綺麗さをなぜ保っているか分からないような綺麗な身なり。
戦闘など無縁であろうかと思うような体躯。
だが、その手には何かの武器が握られていた。
その人物を魔力感知で探ってはみても、俺からは一切魔力など感じることができなかった。
でも、おかしいと感じた。
今はギルドが入り口で規制をしているはず、ギルドでもこのような子を鮮やかな黒髪を見たのなら、絶対に忘れることなんてありはしない・・・だが、記憶にはそのような人物は存在しなかった。
だから、俺はその『おかしい』という直感に従うことにした。
煙玉を勢いよくその人物に投げ、目くらましをした・・・したはずだった。
煙玉は一切のその機能を発揮せずに、ポンッと軽い音を響かせ、地面へと転がった。
そして、ルルラと俺がそれを通り抜けようとした瞬間。
一瞬何が起こたか、分からなかった。
ただ俺とルルラはその勢いのまま転がされ、地面へと無様に転がった。
ルルラのお姫様抱っこから勢いよく空へと放り投げられた俺ではあったが・・・その人物を見つけた時点で何かしらがあるだろうと思って魔法を準備していたおかげで、ほぼ無傷で済んだ。
ルルラのほうもその身軽さで一切の怪我をしていないように見える。
そして、それがこちらを振り向き、こちらに何かを言う。