198.
なんだよ・・・・なんでオレの邪魔をするんだ?
立ちはだかる4人のニンゲン。
外に出たいだけなのに、ナンデナンデナンデ邪魔をするの???
身体を何本もの矢で抉られる。
「あ、アァァァア!!!」
イタイイタイイタイヨォ、ユルサナイユルサナイユルサナイィィィイイ!!!!!!
アレだ、アノ緑のエルフだ。
弓を構えて、こちらに撃ってきたのを見た。
だから、あいつだ。ユルサナイ。絶対にコロス。
次が来る前に、身体が熱くなり、泡立ちながら、付近の泥が穿たれた場所に張り付き、元の身体の形に戻そうと脈動する。
「ハァ、ハァァァ、ハァァァァァァ」
戻る直前にまた撃ってきた。
また当たると思うノ?ハハハハ・・・バッカバッカバーーーカジャナイノ?
手を振り、その手の先から泥が広がり、こちらへと向かってきていた弓矢へとまとわりつきその勢いを殺し、地面へと力なく落ちていった。
今さっき自分を穿った矢を落としたことに気をよくした彼は気づかなかった。
薄く光を帯びた赤髪の男が自分の懐に移動していることに、気づくのが遅れた。
『 』
その声は彼には届かなかった。
届く前に全身が吹き飛ばされ、耳もその衝撃ではじけ飛んでしまったからだ。
赤髪の周りを中心に彼はバラバラに弾け散らばった。
普通の精神ならこの時点で彼は死んでいた。
普通の肉体なら全身が弾けて生きていることなどありなかった。
だけど、彼は普通ではなかった。
だけど、彼は人間ではなかった。
耐えたのが、長い1人という孤独を。
そして、狂ったのだ、長い1人という孤独に。
だけど、何よりも狂った中でも夢があった。
抱けた希望を持ってた。
『外へ出たい』
そんな普通の生活をすれば願うことのないただの些細な願望が、彼を再構成していった。
元人間ゆえの願い、ダンジョンに囚われ続けていたからこそ得た願い、そんな願いさえなければ、彼はきっともっと楽に人生を終えることができたのだろうに・・・。
再構成を底なし沼の中で行い、彼は身を潜めた。
ここが森で草木生い茂ってなければ不自然な泥の動きに冒険者たちは気づけただろう。
ここを大規模森林火災にするような大魔術を使えていれば、泥は土となり、それは彼には戻ろうとはしなかっただろう。
だけど、それは起こらなかった。
魔人を倒していると思い込んだ油断、そして、この下層にはそこまで強い魔物が徘徊していないという油断その気の緩みを彼は見逃さなかった。
帰ろうと・・・底なし沼の付近に来た時に・・・赤髪を引きずり込もうとした。
だけど、それは黒髪の咄嗟の魔術によって、防がれた。
だが、タダでは終わらないと、体勢を崩した赤髪に、もう一つの手の長く伸ばされた爪がその頬を掠め、冒険者は血を流す。
素早く距離を取って、また自分の自由にできる泥の付近に来た。今度は油断なんてしないために。
だけど、その手からは、濃厚な、嗅いだことのないような甘い香りが自分の手から漂ってくるのを感じられた。
空腹さえなければ、喉が死ぬほどに渇いてなければ、彼が戦闘中にそんなことはしないだろう。
だけど、その時は空腹だったら、渇いていた・・・・敵がいるのを承知で彼は・・・その手を舐めた。
「アアァア!!!アァアァァ!!!!アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
満たされる。 長きにわたる渇きが、永遠に続くとさえ思った空腹が。
モットモットモットモットッッツツ!!!!!!食べたいィィィイイ!!
自分の手を引きちぎり、口の中でグチャッぐちゃっグちャっ、その泥に混じった濃厚な血を味わって味わって、味わい尽くして、それはなくなった。
ソレが空腹を満たすには、喉を潤すには、足りない。
もっと満たされたい。もっと・・・・タベタイ。
その視線の先にはありえないものを見るかのようにこちらを見ている4人のタベモノ。
その味を想像するだけで乾いたはずの枯れていたはずの口から唾液がこぼれるほどに溢れ出し、零れ落ちる。
カレの希望は書き換えられた。カレの夢は書き換えられた。カレの願いは忘れ去られた。
カレはもう決して満たされることのないもう戻ることなど叶わない狂った人喰いの化け物だ。