196.
マリウスから出された『見捨てる』という答えには自分は辿り着けなかった。
俺は犠牲になるかもしれない人がガネルの大切だと知ってしまったから。
それを知ってしまったから、誰かの大切な人だと気づいてしまったから。
だからと言って、今までの死んでいった人たちにも誰かの大切な人は必ずいるはずだ。
・・・・知り合いの心配する人というだけで、助けに行くなんて我ながら馬鹿なことだと思う。
だけど、そんなことを考えているうちにも手は動いた、足も、助けに行くための準備を始めてしまう。
何も知らないままでいたなら、こんなことはしなかった。
ただこの部屋の中この世界とは関係のないゲームで暇をつぶして、こっちでのダンジョン育成ゲームを楽しめばいい。
そんな楽ができる。理想じゃないか。
自分は満足して、誰も不幸になっているなんて知らない世界なんて。
だけど、知ってしまったから、もうそんな理想な世界の自分には戻れそうにない。
「・・・行ってきます」
戦う準備を整え、俺はこの安全なダンジョンコアルームの外へと生身で出る。
泥!泥!!泥ッ!!! 見える景色はそればかりで・・・・1回全力でコケて、泥に顔面からダイブして、口にち泥の味と・・・ぬめりとした瘴蟲がでてきた時にはもう心が魔人に出会う前に折れかけて、引き返して、ダンジョンコアで今回もまた傍観者としてそれを見守ることにしようかななんて生温いを考えていた。
それでも俺は走った。
とても走りにくいこの道を・・・・誰だよ!!こんな泥で足場が悪くて、湿度が地味に高くて湿って気持ち悪くて、何の景色の変化もない泥だらけの長い距離の道を作ったのは・・・・俺だよ!!
はぁ、はぁ、はぁ~~~
「・・・・」
そんな文句を頭の中で考えながらも、走る。
だが、ついに我慢の限界の時が来て、叫ぶ。
「・・・走りにくいんだよ!!」
その声は誰にも届かない、むしろ周りの泥に音を吸収されて、とても響かない。
そうすると・・・泥が横に捌ける。
「うぇ?!」
予想だにしない光景が起こって、変な声が出た。
泥が捌けたところを踏むと、泥の感触はしない・・・・普通の地面だ。
とても歩きやすい・・・いや、走りやすい。
「暑いな・・・」
なんて言っていたら、適度な温度と湿度に。
ダンジョンって、声に出して不満を言うことって大事なんだな。
なら・・・・
「殺風景だよな、道に彩りが欲しいな~~・・・なんて」
何も起こらなかった。
いや、うん、そうだよね・・・。
その代わりなんだとおも、、、、わないけど、横に捌けた泥から、ベチャベチャベチャベチャ・・・・めっちゃ瘴蟲が跳ねている。
・・・これが彩なわけがない、むしろ気持ち悪くて気分が下がる。
いや、そうだ、こんな光景を呑気に見ている場合じゃない。
泥に足を取られないで早く移動できるようになったわけだし、先を急ごう。
快適になったと言っても、長い道のりはそのまま。
「・・・・長い、短くして!・・・・ショートカット!」
※ショートカットなんて便利なことができるような設備はこのダンジョンには実装されておりません。
・・・・なんか幻聴が聞こえた気がする。
「・・・・」
そして、泥ばかりであまり見えなかったが、自分の目の隅に何かが書いてある?いや、なんか浮かんでるのが目についた。
・出張ダンジョン商会
・・・・・幻聴が聞こえてきたと思ったら、目の前に見える幻覚、そうか、寝ていないから、とても疲れが出ているのか。
幻覚でも、なぜだか、それに手が伸び、押すと・・・いつも見慣れた購入の画面。
・・・・・・・
・・・・水 ポチッ
虚空から突然ペットボトル飲料水が出てきた。
幻覚だとしても、触ればしっかりと冷たいと感じる幻覚だ。
・・・・キャップを外して、一口。
疲れた体に染み渡る新鮮な水。
・・・・Oh、神よ。
まさしく本物の恵みの水だ。
ちょっと小腹がすいたので、食べ物とこれからまだ走るであろうから栄養ドリンクを購入。
そして、移動手段で・・・検索。
魔物ずらっと・・・・・馬車や馬、軍馬、魔狼・・・・魔物に乗れるわけがないだろうが、いい加減にしろと思った。
そうして、下にスクロールしていると、自転車、バイク、軽自動車、一輪車、飛行機、電車なんてのがあった。
いや、うん、横から見える金額の数字が・・・・もう桁が違うから、買えないけどね。
そして、俺は召喚した、ママチャリを。
・・・・バイクとかかっこいいやん?でもさ・・・・運転免許もとってないし、それに・・・とってないけど、ノリでいけるだろ!なんて言える?・・・俺は無理。安全第一。
前の世界より鍛えられた筋力で、とても早くペダルを漕いで、先を急ぐのであった。