193.
「ダンジョンコアを見ると・・・・魔人がいるんですが・・・」
食事の片付けの後、イオルがお風呂に行っている隙に本を読んでいるマリウスにそう自信なさそうに声をかける。
「え?そうですね」
そっか・・・俺だけに見えている幻覚とかそういうのじゃないんですね。
それはそれとして、マリウスの反応が『それがなんだ?』という当たり前のような反応でそう答えられる・・・あぁ・・・もしかしなくても、俺・・・いや、まだ決まったわけじゃない、うん。
「それだけ?」
なんか・・・・こう、あるんじゃないかな?ちょっとしたリアクション的なものが!!?
「・・・え?それだけって、マスター前に出現時に報告しましたよ、僕」
そっか・・・・報告受けてたか、報告受けてたかぁ・・・そっか、そっか・・・・うん、ぜ~んぜん!記憶にないわ。
「え~???そうだっけ?」
そう下手糞な口笛を吹きながら、とぼけてみるが・・・。
「そうですよ・・・僕言いましたよ?ちゃんと言いましたからね?」
目をそらしている俺の様子を胡散臭そうに目を細めながら、そう言われる。
「いや、うん、疑ってないですよ、はい・・・・」
マリウスがそう言ったのだから、普通に言ったんだと思いますよ・・・うん、マリウスの記憶力よりも自分の記憶のほうが信じられないから仕方ない。
ギルドの依頼で精神的に疲れていたり、ネットをやって睡眠不足だったり、起きたばかりで記憶がぼけーっとしながら、動いていたりで、記憶が曖昧だったりしているからね。
「はぁ・・・まぁ、いいですけど・・・それで話はそれだけですか?」
そう言って、自室に戻りたそうにしているマリウスに向かって、こう言った。
「・・・魔人ってあのさ・・・・人目につかないところに移動できたりしないかな~?なんて」
マリウスはその質問に一瞬驚いたような表情をしていたような気がするけど、それもすぐに引っ込めて、手を顎に当て、少し考えるそぶりをしてから、こう話し始めた。
「結論から言えば、無理だと思いますよ。あれは特異体、いわゆるイレギュラー個体ですから、殺すか利用するかの二択ですかね、利用する場合はこのまま放置でダンジョンの外に出れるような仕様に変更するとかですかね・・・殺す場合は、特性があれですからね・・・冒険者さんが倒すことを見守ることになると思いますよ。マスターの言うとおりに人目につかないところに移動するなんてことを大人しく言うことを聞いてくれるようには見えないですし・・・・」
横に視線を移すマリウスの目には・・・今もGを殺し、喰らい、血を浴びる魔人の姿がダンジョンコアに映し出されていた。
「対話なくしては・・・何事も始まらないと思う!」
「あれと正面向かって対話できますか?」
言ってみたかったセリフに呆れの無言のジト目じゃなくて、真面目に返されるなんて・・・想定していなかった。
「さて・・・次の案を考えよう」
・・・・怖いものは怖い、近くに寄りたくないと防衛本能が訴えているので仕方のないことだと思うんだ。
「はぁ・・・はい」
すぐに諦めている俺を見て、若干の憐みの視線と呆れたような感じの視線が来ている感じがする。
「この魔人、泥のところで産まれたんですけど、今はもう森林型の場所まで階層を上がってきていますし、ある意味マスターの目的である人目につかない場所ですよ。この調子なら鉱山型の10階層まで上がりそうな気もしますけどね。・・・それにしても、なぜこの魔人は階層を上がっているんでしょうかね?産まれた場所が一番特性に合っているような気がしますけど・・・」
へぇ・・・この魔人、泥のところで産まれたんだと、今初めて知る俺。特性特性って・・・特性ってなんだ!?~と言いたいけど、心の中に仕舞い我慢する。
「マリウスが泥のとこまで押し返すってのは?あそこまだ・・・認知されてからほぼ探索されていない一目皆無だし」
他人任せ・・・・いや、だって、俺が押し返す?って無理に決まってるじゃないですか~やだ~。
「もし僕がそれをやったとしましょう。ですが、上がってくる目的が分かってない以上、それを解決しないことにはまたこの魔人は上がってくると思いますよ?それを毎回僕が泥の場所まで送り返すなんてのは正直言って面倒くさいし、キツいものがあります。マスターがあれに戦力として期待されているのなら、あまり怪我をさせないで戻せということだと思いますし・・・腕や足の4本くらい斬り落としてもいいなら、楽なんですけど・・・・」
「エーっと・・・・なしで」
四肢切断って・・・・いや、戦力じゃなくて、要介護の魔人芋虫になるよね?
「はぁ・・・それ以外ならあれを殺すってことが一番早いですね。それに僕としてはあれがダンジョンコアを壊す存在だとしたなら、私があれを壊すのもやぶさかではありませんけど、このダンジョンで産まれた魔物や魔人はダンジョンコアを破壊することはできないので、不利益にはならない存在なので、別にどうでもいい・・・という感じです」
「そっか・・・」
無理か・・・ダンジョンマスターとしては・・・何をするのが正解なのだろうか?魔人を生かすことか、殺すことか・・・そして、それを生かせば友人の知り合いは死ぬかもしれない。だけど、魔人を殺せば・・・今日かもしれないし、明日、1か月後、半年後、1年後、いつの日にか友人の知り合いがダンジョンの奥にいる俺を殺しに来るかもしれない。
それはただの仮定の話でしかないが、いつかは必ず誰かはここに来るだろう。
それは友人の知り合いかもしれないし、ただの他人かもしれないし、友人その人かもしれない。
どうするべきなのだろうか・・・。
「それに今日のマスター何か変ですよ?いつものマスターなら、こんなことを気にしないで、ゲームをやっていると思うんですけど、何かありましたか?」
そう考えていると・・・こちらのことを心配な様子でマリウスは俺に目を合わせながら、そう問いかけてきた。