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グチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャグチャ
ナニカは化け物の肉を貪っている。
・・・・ドンッ
すぐにその肉のなくなった死骸はあたりへと投げ捨てられた。
だが、そのナニカの腹は満たされることはなかった。
・・・ハラガヘッタ。
それは誰もが持つ原始的な欲求『食欲』だ。
だが、そのナニカの『食欲』は満たされることがなかった。
この肉じゃ、何も満たされない。
ただ・・・そのナニカはこの空腹感をごまかすために獲物を見つけ、殺し、食べる。
ナニカはだから、食べる。食べ続ける。
グチャグチャグチャグチャ
その辺りに魔物の血肉を撒き散らしながら、また魔物が寄ってくるように体に血が染みつくように。
ナゼか、ナニカはこうすると魔物が寄ってくるということを知っていた。
だが、ナニカは昔のことはもうほとんど覚えてない。
自分が何者であるかなんて、そんなことはもうどうでもいい。
ただ・・・渇く、腹が減る。
『満たされたい』
その渇望がよりそのナニカを化け物たらしめる。
どことも分からない場所に閉じ込められた・・・とても怖かったのを覚えている。
下には自分には分かるはずもない複雑な魔法陣。
自分以外には誰もいない部屋。
自分の隣で生み出され続ける魔物、そして隅の泥の中に消えていく。
いつ自分が何をされるかもわからない恐怖。
ただ一日を死にたくない死にたくない死にたくないと願い生きていた。
だけど、そんな中でも一日3回届く食事と、時々届く手紙に救われた。
自分をここに閉じ込めたであろうあの少年に復讐を。
食事と手紙の主に感謝を。
ただその復讐と感謝を胸に気が狂わずに、今まで生き続けた。
いや・・・その時にはもう自分は狂っていたのかもしれない。
でも、ある時に食事が止まった。
そこからはもう・・・・気が気では・・・いられなかった。
3日は何も食べずに、幸い水だけは部屋に確保されていた。
それでだましだまし生活をしていた。
だけど・・・無理だった。
人は何か食べなければ、死ぬ。
そんなことは生まれたばかりの赤子でも知っている世界の常識だ。
死にたくない、死にたくない!死にたくない!!
ただ俺はその一心で部屋にあるものなら、吐いても食べた。
紙、机、木のスプーン、お盆、ナンデモナンデモナンデモ・・・腹を満たすためなら、ギリギリ食べれそうなならなんでも食べた。
そして、もう水以外は部屋から消えたある日・・・もう空腹で這いずりながら、の移動しかできなっていたころに・・・あの化け物共が出ていくアレを・・・彼は部屋の隅にある泥を口にした。
じゃりじゃりとしたモノ、通常それは人が食べるものではない。
ほどなくして、食道に詰まり、死ぬだろう。
だが、彼は・・・魔法陣のせいか、それとも泥のせいか、それとも、狂った彼自身のせいか
ソレニ適応してしまった。
彼はもう人間ではない。
彼はもう正気ではない。
彼はもう・・・戻れない。
カレハ泥を何日も何日も何日も何日も口にした。
それ以外に今の空腹をだます術を知らなかったから。
ある日に気づいた。
自分の半分が泥になっていることに。
その時にはもう人としての彼の記憶などさほど残っていない。
ただ本能に従って、泥の中を移動し、森へと来てしまった。
魔物を倒し、肉を食べて食べて食べて・・・
そして、人に見つかった。
当たり前だ。
そんな魔物の死骸は残らないが、飛び散った血が、戦った痕跡が、そして何よりもその異質な気配が人に彼を見つけさせた。
そして、彼はそれを撃退した。
彼はもう消え去りそうな彼ではない、今の彼はただの魔人だ。
戦い方を覚えてなくても、殺し方はわかる。
本能にそれが刻まれているからだ。
そして、彼は自分の強さを自覚してしまった。
獲物ではない、人との殺し合いで・・・一方的ではない殺し合いで。
そこから忘れ去られるはずだった彼だったものの一つの希望を思い出した。
『外へ出たい』
こんな紛い物の空じゃない、本物の空へ
ただ光って、暗くなる空じゃない。
雲があり、雨が降り、温かく元の彼を照らしていた本物の空へ・・・だから、彼は進む。
それをダレにも邪魔させない。
その目にはもはや正気など残っていない。
自分の元の名すら、もう思い出せない。
タダ・・・・ソトヘデタイ
ただ紛い物の月から照らされ、怪しく光る朱い瞳が上を目指し、森の奥へと消えていくのであった。