183.
そうして、宿に帰って、心に負った深い傷を癒すために布団にくるまり、ゲームをしにダンジョンへと精神を戻した。
・・・だからと言って、6時間やそこらで傷は癒えない!あのムキムキとした感触、背中越しに伝わる温かな体温・・・目を閉じればいい匂いが漂ってくる・・・まぁ、うん、逆にそれが余計に精神的にこちらの苦痛を与えてくるのだが・・・。
だって、目を開ければ、その匂いの元凶はムキムキして女装しているおっさんにしか、見えないのだから。
「・・・」
そうして、起きた俺は少し気分が悪いことを引きずりながら、宿の部屋から出て、1階の食堂となっているところへと降り、宿の朝飯として出るパンとスープをちびちびと食べていた。
その様子を見て、気になったのかガネルが声をかけてきた。
「あの・・・なんだか、顔色が悪いように見えますけど、大丈夫ですか?」
そのガネルは声をかけながら、食べかけのパンやスープをこちらの机にうつして、隣の席へと座ってくる。
自分よりも具合がというより顔色が悪そうな俺を気遣って、くれるなんてガネル・・・ええ子や・・・
知り合いが魔人?というのに巻き込まれているというのに・・・俺のことなんか気遣ってくれて・・・目に汗が染み出てくる。
ちょっと・・・慰めの言葉なんかをかける予定のはずが、ギルド長のせいで全力で考えることを忘れて、逆に心配されるって何やってるんだろうか俺。
全部ギルド長が悪い!!((聞き耳を立てていた人
「いや・・・あ・・・うん、ちょっと」
・・・なんて慰めたらいいんだろうか?いきなり『・・・大丈夫?』なんて聞いたら、そっちこそ大丈夫って返されそうな気がするし・・・ん~~~~・・・どうしよう。
逆に知り合いのことを聞いたら、ギルド長みたいに聞き耳を立てていたことを怒られるのかも・・・知れないということを考えてしまい、何も言い出せずにいた。
「またギルド長にやられたんですか・・・」
そう考えこんでいるとガネルにそう言われた。
「あぁ・・・えぇっと・・・うん」
・・・うん、まぁ、ギルド長にお仕置きされたね。という感じで溢れ出る悲壮感を隠さずに頷いておく。
「やっぱりそうですか・・・あれからは僕でも抜け出せないですし、捕まらないように頑張りましょうね・・・悪い人ではないんですけど、ね・・・」
そう慰められた。
「・・・・あ、うん」
悪い人だったら、もう連れ込まれているだろうね・・・どこにとは言わないけど。
「では、僕はこれからやることがありますので」
そうガネルは足早にその場を後にした。
「あっ・・・」
その去り行く後ろ姿にそっと手をお伸ばそうとして、まだ自分がどう声をかけていいのか分からずに、その迷いながら出したその手は虚空を切り、ガネルの姿は宿屋から消えていった。
「・・・はぁ」
伸ばそうとした手を見つめながら、自分の情けなさにため息を吐きながら、これからどうしようかと考える。
幸いにもクエストで溜まったお金も・・1日、2日じゃなくならない程度には溜まっているし、何かしらガネルのためにできることを・・・お肉とかそういうお土産とかで元気づけれるようなことをしようと思い、俺も宿屋から大通りのほうへと歩を進めた。
都市に入ってきた頃よりも重くなってきた革袋を懐から取り出さないように我慢して、露天から漂ってくる美味しい匂いに屈せずに歩く。
「・・・有名なお店とかも知らないし、・・・一番この都市で仲良くなった人って資料館の司書さんぐらいしか思いつかないな」
それ以外で言えば、アルたちに言えば、なんか・・・不安が残るし、ガネルにバレそうだし・・・。
自分だけが仲の良い人ならバレる心配もないはず!
「ついでに・・・魔人?のことについても聞いてみようか、な」
詳しく聞けるとしたら、マリウス、ギルド長、物知りそうな司書さんぐらいしか思い浮かばなかった。
・・・お土産に関してだけで言えば、考えるまでもなく、司書さん一択だな。
そうして行き先が決まっ倒れは、ガネルを元気づけるためのお土産情報と、魔人についての情報を求めて、クエストは受けるつもりはないけど、ギルドへと向かったのであった。