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泥のダンジョンマスター  作者: ハル
174/255

167.


 朝起きて、いつも通りの朝食時に珍しく一緒に食べ終わった爺さんにこう言った。


「今日村を出ていきます・・・」


 そう言うと、少しの沈黙の後にこう返した。


「そうか・・・まぁ、この村も安全ではないしのぉ・・・じゃがな、少し待て、今日冒険者たちも、葬式の後に村を出ていく予定じゃったしのぉ。それについて行った方がよかろう?おぬしには世話になったからのぉ・・・わしから交渉しておいてやろう。1人での旅は危険じゃぞ?」


 世話されていたというほうが多い気がするんだけどな・・・とか、そんなことを思いながら、少し無言でその返答について考えていた。


「・・・」


 戦闘で死んだっていう人の葬式か・・・あんまり知らない人だ。

 でも、これを断る言葉を俺は持たなかった。俺はそのまま葬式へと出ることにした。


「・・・はい」




 葬式には村の人たちが全員とその5人組の冒険者全員が出ていた。

 それはとても簡素で、冒険者の1人が何か言葉と、俺には分からない何かしらをして・・・死者に近いところに立っていた人たちが順にその亡くなった人のところに行って、お別れの挨拶をして・・・棺桶に入れられ、埋められた。

 俺が何をするわけもなく、その光景を後ろの方でじっと見ていた。

 泣いている人を、悲しんでいる人を見て、涙をこらえている人も、その彼に縋りつく人を見ながら・・・全部に目を背けるでもなく、ただじっと受け止める。

 そして、心が少し痛くなりながら、時間は過ぎていった。




 そして、昼ごろになり、あと少しで出発かな?・・・というところで、昼飯も食っていけということになり、また村長の家にお邪魔することになり・・・食事を食べるんだけど。


「・・・いつもよりおぬしの顔は暗いな」


 そんなことを爺さんに言われ、ビクッと肩が跳ねあがる。


「ふぅ・・・あの葬式のやつは、おぬしも戦闘に出れば、未来は変わったなどとは言わんよ・・・戦闘になる前にあやつは殺されてしまったんだからのぉ・・・」


 そうじゃないんだよな・・・助けられなかったという後悔じゃないんだよな。原因なんだよな・・・と心の中で懺悔をしておく。


「・・・」

「戦闘の高揚感と、酒の酔いや、忙しさということは凄いものよ・・・悪いものを一時的にでも忘れさせてくれる、不安を和らげてくれる・・・まぁ、どれも疲れるし、酒は婆さんに怒られるがのぉ」


 ん・・・酒をふるまったのは・・・ん???いや、別に考えないでおこう。


「それを先送りにしても、いつかはちゃんとみなならん、死者の為にも生者の為にも・・・それが葬式には死者との別れという大事なのが含まれておる・・・悲しいが、葬式というのはこれからも生きる者たちにとって、大事なことじゃ・・・」


 俺は何も言えずに、ただじっとその爺さんの話を聞いていた。


「さて、そろそろ時間かのぉ・・・冒険者に話は通しておいたが・・・まぁ、出て行く前に少し待っておれ」


 奥へ何かを探しに行ったと思った村長が大楯と少し重い革袋を持ってきて、手渡された。


「…え?」


 その少し整備されている大楯を受け取って、あれ?整備に出していたんじゃないのか?とふと頭の中に浮かんだ。

 その様子はボロボロなどではなく、普通ぐらいには綺麗に?・・・いや、よく見れば俺が使っていた時にはなかった傷がところかしこに見えた。


「もってけ、わしにはもう使わんし・・・寂しいことに村の者も使わんじゃろうな。倉庫にずっと置いておくのもかわいそうなのでな・・・これもついでに餞別じゃ!餞別!おぬしが狩りの時に狩った獲物を売ってできた金とわしの稽古に付き合ってくれた謝礼じゃ・・・あの日にも役に立ってくれたしのぉ」


 モノの価値・・・甘いものや、土産なんてのは分かっているけど、角兎や、イノシシなんて価値は俺には分からないけど・・・こういうのをもらえると思ってなくて、心にグッと来て、目にウルッときそう。

 でも・・・襲撃が起きた原因俺なのかもしれないんだ・・・いや、俺が原因だろうから、今はその優しさが俺の心に突き刺さる。


 そんなこんなで、爺さん経由で俺が出ていくことを聞いたのか、ヒューさんやウィーン先輩が馬車の近くに来ていて、そこで別れを済ませ、俺は村を後にしたのであった。

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