165.
「というわけで、冒険者の報告じゃったが、これは・・・どうしたもんかのぉ・・・」
冒険者の調査の結果
・巣を発見。
・巣の中にはゴブリン1匹もいなかった。
・本来ならば、巣に残すはずの赤子、ゴブリンのメス、苗床すら発見できなかった。
・隠れているかもしれないと思い、付近を探索してもそれらしい骨や死体なども見つからなかった。
・巣と思われる中には、散乱した何かの骨、壊れた棍棒の残骸、何匹かの既に変色し始めているゴブリンの死体。
・貯め込んでいる宝1つなし。
・村とは別方向に大移動してきたと思われる森の奥へと続く痕跡。
「案内人として、俺もついていって直接見たんだが、痕跡を辿って、発見した村を襲ったゴブリンのいたと思われる巣にはメス1匹も赤子や、苗床すらもいなかった。あったのは散乱した骨と壊れた武器の残骸ばかりだったんだが、付近を探索してみると、真新しい森の奥から来たゴブリンらしき足跡が見つかったんだ・・・まぁ、それが俺達の村を襲ったゴブリンがそこに来た足跡だろうがな」
「森の奥に他のゴブリンの巣があるの・・・かのぉ?」
そう村長がヒューに言うと、両手で顔を覆いながら、長い溜息の後にヒューがそれに同意した。
「はぁーーーそうだよな、村長の言うとおり、森の奥にゴブリンの巣があると思うよな」
「これ以上巣が大きくなる前に調査と、できれば・・・討伐じゃが・・・」
自分を傷つける武器を持ったゴブリンが来た巣だ・・・それが前のよりも弱いはずがないとそう思ってしまい、討伐するということをできるかと不安になりながら、そう村長は言葉にする。
「ガゼル、お前を奇襲としても傷つけられる武器を群れから離れたゴブリンに持たせられる集団だ。討伐はこの村で行うことは無理だ。お前を失うだけではない、村の自警団みんな・・・いや、それ以外の人たちも戦いになれば、犠牲になるだろう」
そう意見をするロイの言葉に同意して、この先をどうするかを考える。
「そうじゃな・・・その通りじゃな、ならば調査して、領主様に報告して、兵を出してもらうか、殲滅できるだけの冒険者を雇ってくれるのを待つしかないのぉ・・・」
それがどれくらいで領主の耳に届き、それを解決させるまでどれくらいの時間がかかるだろうか?
それまでに自分たちの村が襲われない保証なんてどこにもない。
そういうことが分かっていたからか、辺りには重い雰囲気だけが漂う。
「そういえば、ヒューよ、あの冒険者たちはどうじゃった?」
話の雰囲気を切り替えようと、あのユウキと模擬戦をした女冒険者のいるパーティについて尋ねてみた。
「あぁ?あいつらか・・・戦闘の方はゴブリンの移動のせいで、辺りの魔物や動物なんかには遭遇しなかったが、森の奥のゴブリンの巣の調査はあの冒険者たちはやる気だったな」
「依頼はゴブリンの巣の調査だったんだがな・・・お前たちが先に倒してしまって、奥のゴブリンの巣の依頼なんだと思ったのかもしれんな」
そうロイが言うと、ヒューが苦笑いを浮かべながら、こう言う。
「まぁ~止めておいた・・・下手に奥に行ってもな。いや、調査の為には大事なんだが、下手に刺激しないか心配だったしな、村にも被害が出るかもしれないし・・・」
そう言い淀んでいると、村長がこう口を出した。
「若いのを囮に使って調査はあまりやりたくないからかのぉ・・・」
「はぁーまぁ、村長の言うとおりだな、やったほうがよかったか?」
そう内心の気持ちを当てられると、溜息を吐きながら、村長に向けて、ヒューは問いかける。
「やっとったら、わしが思いっきりぶん殴ったわい」
右手で殴るような動作を見せながら、笑った。
「まぁ、そう言うと思ったよ、村人優先しなかったのは悪いとは思ったが、だからって、村人以外を犠牲にするのを許容するのはな・・・」
「そうじゃな・・・明日する供養の後に、依頼の達成にサインして、冒険者たちを帰すとするかのぉ」
そうして、今日の集まりは解散されるのだが・・・村長がぽつりとこんなことを呟いた。
「まぁ、多少は報酬は減額するがのぉ・・・ゴブリンが1匹もいない調査依頼などな・・・」