163.
「あの・・・」
そんな村長たちがひと段落したところで、知らない5人組の1人が話しかけてきた。
・・・まぁ、全員の村人とか、俺が覚えているわけもないのだけれども。
あの状況で話しかけるなんて誰だろうな・・・とか、その様子を関わらずにお婆さんたちが荒らされて日持ちしなくなったもので作った簡単な料理に舌鼓を打ちながら、観察していた。
よくよく見れば、服装は動きやすそうで、背中や腰に下げている弓や、剣などが見える。
・・・本当に誰だろう?
そうして、片手には料理、片手にはお酒を持ちながら、村長たちの話に聞き耳を立てる。
「あぁ・・・俺達はこの村に調査に来た冒険者だ・・・です」
「おぉ!こんなにも早く来てくれたのか」
そう来てくれたのが嬉しそうに怪我をしていない片手の方をさしだし、村長はその冒険者に握手を求める。
こんなに早く来た冒険者は優秀なのだろうか?という疑う気持ちがないわけでもない村長の顔を察してか、その様子を横で見ていたロイが、さっきまでの怒りがこもった声などではなく、冷静な声音で口を出す。
「・・・急ぎで依頼を出したからな。だが、馴染みの隣村だったギルド員から紹介だ、こいつらは実力は信用は置けるだろう。この若さでもうすぐにCランクに届きそうなほど優秀なのだという」
つまりDランク・・・Dランクの凄さがいまいち理解できない俺は酒を飲む・・・ただ静かに息を潜ませながら、食べ物とともに補給される酒を飲む。
「そうか・・・それなら安心じゃのぉ・・・それでそれほどまでに強いのなら、パーティ名はあるじゃろう?この老いぼれに教えてはもらえぬかの?」
「あぁ・・・パーティ名は・・・まだ決めない、、です」
爺さんの巨体から発せられる威圧感と、その期待したような眼に若干後退りながら、申し訳なさそうに彼はそう言う。
「あぁ、そうか・・・それは残念じゃわい、おっと、そうじゃ、わしはこの村の村長をしておるガゼルじゃ、さっきは見苦しい姿を見せてすまなかったのぉ」
「あ、いえ・・・」
謝れると、そのリーダーが気まずそうになった。
そして、何やら後ろの女子が爺さんに聞いてきた。
「あ、あの・・・城壁?のガゼルさんです、か?」
「ほう、若いのにわしのことを知っておるのか、お嬢さん・・・まぁ、今はただのここの村長をやっている老いぼれじゃよ」
筋肉ムキムキなただの老いぼれ(哲学)
・・・ていうか、いつもよりなんか丁寧な言葉遣いになっているような・・・あれ?こんな人だったっけ?握手よりも先に背中をバシバシしている姿が普通なんじゃないかとジト目で村長のその姿を眺める。
「あ、あの!父に昔聞いたことがあって!それで最近わたしタンク系に転向したんですけど、もしよろしければご指導を受けさせて頂けませんか!?見てもらうだけでも結構ですので」
そうぐいぐいと若い女の子が迫ってくるのに、ばつが悪そうに自分の怪我をしている方の肩をさすりながら、こう言う。
「う、うむな・・・少し怪我をしたのでな。じゃからのぉ・・・そうじゃのぉ、わしの教えとる若いやつと軽く打ちあってもらって、それに口を出すぐらいじゃな・・・まぁ、今日のわしらも、冒険者達も少し距離のある移動で疲れているじゃろう?明日時間がある時にするとしよう。さて・・・・わしの家には今は5人も空きがないのでな、そうじゃな・・・冬が明けてからまだ掃除してない空き家があるのじゃが・・・それでよいかのぉ?」
「あ、最悪外で寝るのも覚悟していましたから、屋根があるところであるなら嬉しいです」
そう犬耳?かな??そういう姿をして弓を背負っている男?だよね?そんな人がそう言葉を返した。
「そうじゃな・・・」
案内をできる人を探そうと周りを見渡すが、ロイに叩き起こされて、そのまま説教されている自警団員たちをここで案内させるのもと、一瞬考えて、近くにいたお婆さんに頼むことにした。
「婆さん、この冒険者の方々をあの空き家に案内してやってくれ」
「は~い、分かりましたよ、お爺さん」
そうして、その5人はその場を後にした。
そうして、爺さんの言葉を思い返していたら・・・
「・・・ん?」
村長が教えている若い人か・・・あれ?うーーん、そうだ、自警団の人たちに決まってる、俺のことじゃない!第一こちとら~軽く脇腹抉られている重傷人だよ??本当の重傷の人は酒なんて飲まずにベットの上で寝かされているだろうけどさ。
「・・・ふぅ」
注いでくれるお婆さんがいなくなってしまった。
そうして、自分じゃないよな~と自分に言い聞かせながら、とぼとぼと俺は村長の家に帰って行くのであった。
エイプリルフール!ウソはつかない!!たぶん!
新元号『令和』になりましたね~~