158.
ヒュー視点
1人教会前で、腕を組みながら、報告やら、指示やらを出して、一番この中で夜目が効くということもあり、寝ずの番で見張りをするつもりだった。
「はぁー」
思わずため息が出てしまう。
こんな有事の際は気を抜いてはいけないのだが、やるはずのなかったことをやらされているわけで、気分が落ちてしまうのも仕方ない。
それに村長も、最近面倒を見ている坊主も無事な姿をみかけていないのだから。
ふと、雨音に混じって、何かの足音がする。
武器に手をかけながら、警戒をしていると、見えてきた影の大きさのものと、あと1人・・・誰だか分からない影だ。
少し安心したのだが、まだはっきりとしないまま、警戒を解くわけにもいかず、一応は武器に手をかけたままにしておいた。
そして、はっきり見えた影に向かって、こういった。
「おい、爺さん、どうしたその傷」
「おぉ、ヒューか・・・ちとな」
「中に入れ、怪我の治療が先だ」
もう1人の影も防具を纏っている姿から見るに自警団の奴だろう。
村では見た顔だ。名前は・・・・なんだったか?まぁ、それよりも爺さんの治療が先だ。
教会に入って、起きて休憩をしている自警団の1人にこういった。
「少し表を頼む、何かあったら、奥の部屋にいるから、呼んでくれ」
そう伝言を伝えて、爺さんとあとついてきた自警団の奴もつれて、奥の部屋に入っていく。
「悪いここで少し待っていてくれ」
それで俺は地下に行って、治療道具と雨でぬれた体を拭くタオルを持ってきた。
「待たせて、悪かったな」
そう待っていた2人にタオルを手渡して拭くように促した。
爺さんのほうは肩に治療をされると分かっていたのか、邪魔な皮鎧と服は脱いでいた。
「さすがに替えの服は用意してないわ、この雨じゃ火をたいて乾かすこともできんが、我慢してくれ」
「よいよい、すまんな、ヒュー」
そして、治療を始めるのだが、坊主がいないという、こんな話題を振ってみた。
「それで、坊主がまだここに来てないんだが・・・」
「それなら心配なかろう。近くで戦っておる音がした。加勢をしようかと思ったが、盾に当たる音がしたのがあってのぉ・・・たぶん小僧じゃろう。あれなら、ゴブリン相手なら不意打ち喰らわねば大丈夫だろう。あやつの盾を使っておる音も響かしておいて近くにいたゴブリンの注意を引き付けていたおかげで、わしらはゴブリンと遭遇せずに、安全に教会に来れたしのぉ」
「・・・」
少し頭を抱えて、まぁ、坊主・・・大丈夫かとも思ったが、今治療をしている爺さんの肩の傷のほうに目がいった。
坊主より強い爺さんが怪我を負ったんだ、ここで貴重な戦力を失うのもな・・・俺が助けに一応行ったほうがいいかもな。
「・・・はぁーまぁ、そうか、なら、爺さん俺の代わりに指示を」
「嫌じゃ」
そう思って、指揮権を爺さんに譲渡そうとしたら、即座に断られた。
「は?今なんて?」
聞き間違いかもしれないので、もう一度聞きなおす。
「わしは勝手に行動したからのぉ、そんな勝手な奴に指示を出されるのも皆も嫌じゃろう・・・わし何も考えずに、指示出すのより戦ってたほうが楽じゃし」
「おい!!明らかに最後のが本音だろうが!!」
無事なほうの肩を掴む。
「やめとくれ~わしは怪我人なんじゃ」
「ああ!!くそっ・・・分かったよ、俺がやるが・・・どこでその傷を負ったかちゃんと説明してくれよ、村長」
坊主、助けに行けそうにない・・・生きてここに帰って来いと心の中で願いながら、治療も終わった村長からその話を聞く。
「はっはっは・・・この傷についてじゃが・・・まぁ、ちと下手こいただけじゃ、木の上からの奇襲じゃよ、こやつを抱えてなければ・・・まぁ、受けたもんは受けた、それだけ相手が上手かっただけじゃな」
そう笑いながら、答える村長。
「木の上からの奇襲か・・・」
上からの攻撃に注意しとけと自警団の連中に言っておくか、そのゴブリンだけが特殊かもしれないが・・・爺さんに傷を与えられるってことは、いい武器か、レベルの高い上位ゴブリンか・・・爺さん以外だったら、即死していそうだが・・・そんなことを考えていると、次に爺さんがこういった。
「あぁ、そのゴブリンのわしの見立てが確かなら見張り小屋を襲った奴で、こやつは襲われた見張り番の片割れじゃ」
「おい!そっちも大事なことだろうが!!」
いなくなった見張り番と分かり、すぐさまそっちにも話を聞く。
状況説明
「片割れが死んで、そのやり方はナイフのような牙で、見張り台の梯子からじゃなくて、外側から登ってきたと・・・それに爺さんも上から奇襲、隠密に特化して、木の上からの強襲・・・なんだそのゴブリンは・・・あぁ、嫌な相手だ」
強いゴブリンじゃなくて、そいつが使っていた牙が強かったか。
強い魔物の死骸からそれを剥いだと考えたいんだが、その強い連中を倒すところまで死なずに帰ってこれるゴブリンがいることのほうが厄介だ。
「はぁ・・・爺さんとそこの見張りは休んどけ・・・戦闘が起きたら叩き起こすが」
そして、また俺は教会前への見張りと、指示役として戻ったのであった。