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泥のダンジョンマスター  作者: ハル
159/255

152.


 月明かりすら、辺りを照らさない真っ暗闇の中。

 夜に吹く風は冷たく身を凍らせ、見張り台に雨避けなどあるはずもなく、ザーザーと降る雨は無遠慮に2人の体を濡らしていく。

 普通の装備ならば、その二つはあっという間に、2人の体温を奪い取っていくだろう。

 そのために、いつもは夜の見張りは毛布などに包まりながら、辺りを警戒するだけなのだが、今日に限っては・・・このできればやりたくない日だからか、温かい飲み物や、甘い保存食などを差し入れに持たされて辺りを警戒している。

 そんな中でランプの光だけを頼りに周りを警戒している自警団が2人いた。


「はぁ・・・暇だな・・・それにしても寒いな~はぁ・・・」

「おい、暇なのはいいことだろうが!」


 1人は真面目そうな雰囲気で辺りを警戒している。

 もう1人はこんな日に見張りの当番だということを溜息を吐きながら、辺りを警戒している。


「何が悲しくて、お前と2人で見張らなきゃならんのか・・・はぁ・・・まぁ、村長の命令だし、いいんだけどさ~甘いもんとか差し入れにくれたし・・・でもな~なんでこいつと同じ時間帯に見張りなんだか・・・」

「・・・お前、殴るぞ?」


 見張り台は通常では1人で見張るようにできている・・・2人になれば、その分狭くはなるが・・・文句を言うほどに狭くはないある程度の広さはある。

 だが、その不真面目な彼は、自分と性格が合わなそうな真面目な彼のことを見て、そう言った。


「はぁ・・・」

 ドンッ

「・・・いてぇ!本気で殴ることねぇじゃねぇか!」

「・・・うるさい、見張りに集中しろ」


 そう不真面目な彼のことを軽く殴ると自分の職務へと、温かい飲み物を少しずつ飲みながら戻って行った。

 そんな光景を見ながら、不真面目な彼も差し入れでもらったものを少し噛みながら、見張りを続ける。


「はぁ~あ・・・それに今日の見張りに意味があるのかね?ヒューの旦那が今日の昼に見てくれて、ゴブリンが近くにいるってことはなかったんだろ?なら・・・今日の襲撃はねぇだろ?」

「そんなことに絶対なんてのはない。ゴブリンのことだ、今夜いきなりこの村を襲うのもあり得るだろう?」


 そう信頼を寄せている猟師のことを信じている不真面目な彼。

 猟師に信頼を寄せてはいるが、それと同じくらいにゴブリンという存在が気がかりな真面目な彼。


「あぁ・・・はいはい、そうですね」

「なんだ?その顔は」


 そのことをありえるかもしれないと、不真面目な彼も思っていたのか、少し適当な感じの返事になる。

 そんな適当な返事をする彼を横目で見る。


「こっちも見てねぇで、ちゃんと森見張っとけよ」

「お・ま・え・な」


 もう一度握りこぶしを作って、殴る用意をしていたら・・・


 ガサッ


「「!?」」


 雨音に交じって、何かが森の中から動くような音が聞こえてきた。


「どっちの方向だ?」

「雨音がうるさくてよくわかんねぇけど、たぶんあっちだ」


 あぁ・・・ついさっきまでゴブリンが出るかもしれないという話をしていたのだ。

 『もしかして本当に?』

 そんな考えが2人の脳裏を過る。

 目のいい真面目な彼がランプを持って、その耳のいい不真面目な彼の言っていた方向に灯りをよく照らして観察する。


「あぁ・・・いやだいやだ、なんでこんな暗い夜に来るんだろうな・・・」

「いつでも鐘の音を鳴らせる準備をしておけよ」

「りょうかい」


 不真面目な彼は真面目な彼がいたと言った瞬間に鐘を鳴らすためのハンマーを持って、準備をする。

 ・・・目を凝らして見てみても、草や土、木なんてものしか見えない。


「・・・うぅ、ゴホッ、●●」

「おい、どうし・・・」


 後ろを振り向けば、緑色をしたゴブリンが目の前で彼の首を刺していた。

 言葉にならない声で伝えようとした彼が・・・こちらに助けを求めるためか、それとも気付かせるためにか、伸ばしていた手がその彼の眼の光が失われるごとに、下へとさがっていき、ドサリと彼の体は倒れた。


「くそっ!」


 あちらは動物の牙で、こちらは抜いていない長剣・・・俺にここで仲間の死体の足場、この狭い所でこのゴブリンに勝てる自信はない・・・ならば・・・


「うぉぉぉぉ!!!」


 勢いよくランプをゴブリンへと振り下ろす。

 パリンという音ともにランプは割れ、辺りにアルコールと火をまき散らす。

 当然ゴブリンも火がかかり、幸運にも・・・ゴブリンにとっては不運にもアルコールの大部分がかかり、それに火は群がっていく・・・火だるまになったゴブリンはたまらずに・・・見張り台から逃げて行った。

 そんなことを知らずに・・・ただ・・・知らせなければいけないという使命感から、彼は鞘ごと剣を抜いて、剣の柄頭で思いっきり鐘を叩いた。


 ゴォォォォン


 3度、鐘の音が村全体に鳴り響いた。

 鳴らし終わったら・・・辺りを見て、ゴブリンがいなかった・・・だが、毀れた火が徐々に見張り台を浸食していく。

 そして・・・彼のもの言わぬ死体を改めて・・・認識してしまう。


「・・・すまない」


 そう何も返ってくることはない謝罪を口にし、せめて・・・火に燃やされぬ場所にと、彼の死体とともに見張り台を後にした。




 その音は確かに届いていた。


 ゴォォォォン


「む?・・・急がねば」


 ある村長に届いた。





ゴォォォォン


「くそっ・・・痕跡もなかったってのに、今日かよ・・・月明かりもねぇ。こんな夜に来るなんてついてねぇよな」


 ある猟師のもとに届いた。





ゴォォォォン


「・・・すやぁ」


 寝ているホムンクルスにはまだ届かなかった。

 2人とも死ぬ予定だったはずなのに・・・完全に生き残っちゃった・・・


 死に際に村の危機を知らせる鐘の音で死んだ英雄に・・・生きたけど・・・


 頭の中で勝手に動いちゃうから仕方ないよ、ね・・・

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