148.
ゴブリンと遭遇した次の日はいつも通りに起きて、お婆さんに挨拶しようと思ったら、姿が見えなかった。
ただ食卓には自分の分と思われる器が置いてあり、1人寂しく食事をする。
食べ終わり、お皿を水で洗い、外に出る。
いつもは庭で素振りをしていたり、整備をしていたりする爺さんの姿は見えず・・・ふと、2人とも家の近くにいないなんて初めてかもしれないと思っていた。
そして、空を眺めながら、何しようかとぼーっとしていたら、こちらに向かってくる爺さんを見かけ、あちらも自分のほうを見つけたからなのか、忙しそうにしてても、一言『今日は稽古はなしじゃ』と言われた。
これは爺さんから俺に対するゴブリン討伐で疲れている自分に対する・・・労い!?かもしれない。
まぁ・・・それはないだろうと内心で思いながら、今爺さんたちが忙しそうにする理由なんて、昨日のゴブリンかな?とぐらいしか思い当たらなかったが・・・余所者の俺が知らないこの村特有の雪が降らなくなったお祭り何かしらがあるかもしれないけど・・・
そういえば、稽古ができる日で、爺さんが忙しくすることなんて、孫娘に悪い虫がつくのを阻止するためのこと以外では、ほとんどなかったので、まぁ・・・今日は色々あるんだろうなと・・・1人庭に出て、ちょっとだけ素振りをしてから、素振りをやめた。
相手がいないと・・・いや、見張られていないと地味にやる気が出なかった。
それに、稽古はなしと言われたんだから・・・うん、今日は休もう。
・・・行商人が来た時ぐらいしか、自分から村の中を歩きに行かなかったから、何をしよう。
知り合いなんて・・・ほぼいないし・・・爺さんの家で二度寝する?それともダンジョンに精神的に帰るか・・・ぶらぶらと、村でも見て回るか。
人は・・・知らないところを歩いていれば、好奇心旺盛に歩いて行けると思うんだが、ここは一応は結構住んでいる村だ。
爺さんにボコボコにされている人だ~と、ふらっと行商人のところに行った時に、俺より幼さなそうな子に、そんな愛称で呼ばれた。
その通りなんだけど、グサッグサッと内心を地味にそれは抉ってくる。
だからか、見えないナイフで刺されそうな子どもはいなさそうで、爺さんの稽古を知っている人・・・つまり、爺さんの稽古を受けて、その痛みを分かる人のところに自然と吸い寄せられてしまうことは仕方なかったことだと思う。
ウィーン先輩の家も知ってはいるが、昨日のことをいじられそうなので、ヒューさんのところにふらっと行くと・・・いつもなら、ヒューさんは狩りが終わった・・・次の日は、いつもはだらだらと、爺さんと俺との稽古を見物してゲラゲラと笑っているのに今日に限って、忙しそうに家を出ていった。
そんなところで・・・ばったりとふらふらと漂っている俺を見かけて近寄ってくる。
「あー坊主じゃねぇか・・・」
素振りを少ししたとしても、いつも狩りに連れ出されるよりは少し早い時間に・・・ヒューさんに会うなんて珍しい、いつもは昼頃に爺さんとの稽古を見にくるし・・・茶化しにか?
ヒューさんのほうも家に出て、ぶらぶらしている俺に会うとは思ってなかったらしく、頭をボリボリとやりながら、こちらに近寄ってくる。
「何か・・・あるんですか?今日どうせ暇ですから・・・手伝いますよ?」
狩りが終わった後は、いつもは軽い感じな服を着ているというのに・・・今日のヒューさんは、昨日みたく動かしやすそうな服を着ているから何かあるなら手伝おうか、と言う気持ちを込めて・・・暇だからを強調して言ってみるが・・・
「あ・・・いや、ちょっと今日は1人でする野暮用があってな。あぁ、そうだそうだ、暇なら坊主、フィーリエのとこまで行って、当分1人の狩りは禁止だって、言ってきてくれねぇか」
暇という部分にそう思いついたのか、それとも俺に来られたらいやなのか・・・そんなんことを勢いよく言った。
「え?・・・あ」
「頼んだぞ」
その勢いにたじろいでいると、ヒューさんは返事も待たずに、忙しそうにどこかへと走っていった。
「あ・・・」
止めようと、俺には無理だと、断るために伸ばそうとした手は彼には届かずに空を切る。
・・・無理やり頼まれごとをされてしまった。
いや、どうせ暇だけど・・・暇なんだけど・・・
1人の女性のところに会いに行くヒャッホーみたいな気分にはなれず、重い足取りで、フィーリエの家にまでトボトボと向かうのであった。
爺さんにバレたら・・・やましいことはないんだけど、やましい気持ちもないんだけど、気持ちが沈む。
前の閑話みたいなのを・・・あとに出しとけばよかったかもしれないと内心で思いながら、書く。
ノリで書いてる弊害。