138.
そうして・・・また爺さんと稽古をしていたある日の休憩中にヒューさんは話しかけてきた。
「よぉ」
「あ、こんにちわ」
「おう、今日も爺さんと稽古か・・・坊主もよく耐えれるな・・・まさか、俺も森の前で拾った奴がここまで諦めないなんて思ってもみなかったわ」
そう俺の背中を軽く叩きながら、そう笑いかけてくる。
「その節はどうも、まぁ・・・爺さんの家に泊めさせてもらってるし、それで鍛えてくれますし・・・」
「そりゃあ・・・爺さんからすれば坊主は目に届く範囲にいたほうが安心できるだろうからな」
ん?・・・まぁ、村の人たちからすれば、外の人で何かするかもしれないと思われることは仕方ないことなんだろうな。
「まぁ・・・そうでしょうね。でも、これって弟子みたいな感じなんですかね?」
「あぁ、そうとも見えるな。それにしても、お前も爺さんから習うなんて・・・最近の傭兵見習いも物知りなんだな」
「ん?なんですか?それ?」
ようへいみならい?・・・俺は何も知らないさすらいの旅人な気分・・・いや、多分俺は森の前で力尽きて倒れる旅人(笑)と思われているかもしれないけど・・・
いきなりそんな言葉を言われるものだから、訳も分からずにそう言われた理由を俺はヒューさんに聞き返した。
「は?いやいや、何言ってんだよ?は?!まさか・・・お前フィーリエ狙いなのか?いや、それなら、爺さんが森に一緒に行かせるとか・・・あぁ、爺さんがついにボケたか」
フィーリエ狙い?・・・ははは、そんなわけないじゃないですか、爺さんに睨まれて、稽古が厳しくなるからやめてほしい、いや、割とガチで。
「いやいやいや、違いますって、それに俺傭兵よりもどちらかといえば、冒険者で世界を旅をしたいんですけど・・・」
わしの孫が可愛くないのか?!という見えない後ろでの圧力が増したように感じた。
「は・・・?あ、え?」
「え?」
その後に爺さんが戻ってくるまでに、ヒューさんと俺は話し合った。
爺さんが戻ってくるころには俺のほうの誤解もとけたが、ヒューさんがなぜそんなことを言ったのかは爺さんがそのころに戻ってきて、離せなかった。
「なんじゃ、ヒュー来ておったのか、お前さんも稽古をしていくか?」
爺さんは戻ってくるなり、そうヒューに声をかけてきた。
「あぁ・・・いや、それは遠慮しておくわ、明日は狩りに出かけるつもりなんでな。それとは別で・・・まぁ、坊主のことで話し合いたいんだが、いいか?」
「なんのことじゃ?」
「いや、たぶん爺さん・・・あんた坊主の稽古・・・間違えてるぞ?」
「ん???なぜじゃ?」
「・・・?」
え?稽古を間違えてる?・・・傭兵見習いって言われるし・・・そういことなのかな?あんまりよくわかってないけど。
「あぁ、爺さんは対人戦を想定しているが、小僧のやりたいことは魔物とかのやつじゃねぇのか?」
「ふむ・・・そうだとしても、小僧は追われてるから、別にこれでも構わないじゃろ?」
「は?追われてる!?」
「追われてません!!」
無実だ~ちょっとしたワケありな旅人かもしれないけど、追われてはない。
「はぁ・・・まぁ、今はそれは置いとくとして、爺さんの稽古じゃあ、坊主は自分より大きい魔物と戦った時確実に無理だろ、死ぬぞ?」
「ん?わしなら、熊ほどの魔物でも耐えるぞ?」
「それはあんたぐらいになればの話だろ、坊主には無理だ!」
そんなはっきり断言して否定しなくてもいいじゃない・・・・無理だけど、心はちょっと傷つくんだよ。
そんなこんなヒューさんと爺さんは言い合っていた。
最終的にヒューさんが魔物に対してのことを、爺さんが対人に対してのこと、兼稽古をすることになった。
そして、話し合いが終わった後に、今日の稽古は切り上げられた。
そのあとにヒューさんと2人で話していたのだが・・・。
なんで、俺が見習い傭兵なんて思っていたのかを尋ねてみたら。
「俺は小僧の訓練見てて、傭兵になりたいもんだと思ってたわ。爺さんに習ってるしな」
「ん???」
なぜそう誤解したのやら・・・
「爺さんは昔戦争で活躍した騎士だったんだよ」
「え?」
・・・初耳。え、でも・・・想像できない。だって、今・・・
「・・・あの孫溺愛している爺さんが?」
「あぁ・・・そうだ、フィーリエに男がつかないように目を光らせているあの爺さんがだ。昔は鬼のように怖かった。今でもある意味怖いが・・・」
「ある意味?」
「あぁ・・・今は娘に近づく輩は問答無用で鬼の稽古を受けて、折れる。そして、爺さんはその腕を鈍らないために村で暇しているやつ相手に稽古をする、暇してなくても・・・有事の際があったらいかんとなにかと理由をつけて・・・作業の邪魔にならない程度に引き抜いていく」
「あ・・・あぁ・・・」
稽古を毎日受けているからか、俺にはその光景が容易に想像できてしまった。
そして、孫は爺さんが死ぬまで・・・独身かな~?なんてちょっと不謹慎なことを考えてしまった。
「まぁ、坊主が来てからは、稽古相手ができたから、俺らに回ってこなくなったのが、一番の救いだな・・・」
「・・・」
生贄?・・・いや、まぁ・・・鍛えられてラッキーと思えばいいんだ!
「あぁ、それで見習い傭兵だって言った理由だったな、まぁ・・・俺らも最初のほうは坊主をただ旅に不慣れな旅人だと思ったんだが、爺さんの稽古を受けているのを見ているうちに、俺らはお前が爺さんのことを知って訪ねてきた見習い傭兵か、フィーリエのことを狙ってどっかの村から来たアホだと思ってたわ」
「へ、へぇ・・・」
「そして、森でのことで、フィーリエと2人で行かせるなんてありえねぇから、爺さんに習いに来た見習いの傭兵だと思ったわけよ」
「へぇ~傭兵って来るんですか?」
見習い傭兵が来たと思ったってことは他にも来たことがあるのかな?と聞いてみた。
「いや、まぁ・・・爺さんが村に帰ってすぐの頃は近くの村の連中とかが、少しは来てたが、今じゃ来る奴なんていないな。爺さんが自分より強い奴なんてのはいっぱいいるって本人が言ってし、それにわざわざこんな辺境まで来る奴もほとんどいないな」
「あぁ・・・そうですか。・・・あ、これからよろしくお願いします、ヒュー師匠?」
「ん・・・あぁ・・・まぁ、うん、よろしくな」
そう握手をしてから、2人は帰っていった。
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この時ヒューは・・・
坊主が爺さんから稽古を受けなくなって困るのはこの村の男衆だ・・・せっかく爺さんとの稽古をしなくてよくなってきているのに、それが復活してしまったら・・・
それにそれが俺が原因でなったとしたら、大なり小なり俺に不満が行くことは確定的に明らかだ。そうなったら俺が必然的に村の連中から爺さんに差し出される・・・だから、坊主のために、少しの時間くらいは割こうじゃねぇか・・・俺の心の平穏のために。
とそのように考えていた。