127.
「・・・近距離戦闘しかしてないような気がする」
ふと、そんな言葉が・・・ボコボコにされている俺の口から洩れた。
「そりゃあ・・・まぁ、当たり前じゃよ。おぬしが使うのは片手剣で必然的に距離を詰めなければならんからのぉ・・・そうじゃな、ふむ、いざという時に槍を使うもんと戦うかもしれんし、それらしいものを使った稽古一度してみるかのぉ」
違うんだよ・・・相手方じゃなくて、自分のほうが使いたいんだよぉぉぉという心の声はしまっておいて、一応稽古を受けている側だし・・・まぁ、それにそれらしいものを貸してもらっても、使ったことないから使いこなせるかは別として使ってみたいな~とか思ってみてもいいじゃないか。
そんなことを考えているうちに、爺さんは少し歩いた庭のあるところに行って、あるものを取ってきて、戻ってきた。
「・・・爺さん、なにそれ?」
一応だ、一応・・・それを使うところはみたことがある。田舎ならいたるところに武器になるようなものを生活の一部にして、いざ魔物が来た時に備えるみたいな心構えがあるかもしれない。
そんな村がマリウスが選んだ村だったら、いやだなとか思うけど・・・人のいい村の影に潜む殺伐な村!という感じのはな・・・本当に嫌だな・・・。
だからだ・・・一応、自分の認識通りのものか、それ以外のなにかか、爺さんに聞いてみた。
「物干し竿じゃ」
「・・・」
あ・・・普通に物干し竿か、物干し竿に化けた武器じゃなかったのか・・・でも、これはこの爺さんまたお婆さんに怒られるぞという気がしてきたので、自然とこの現実から目を逸らした。
そうしているうちにあれやこれやで・・・婆さんに叱られても知らないよとか思いながらも、稽古しちゃう・・・だって、『これが嫌なら、わしの得物もある程度の長さがあるしのぉ、それを倉庫から持ってくるかのぉ』なんて言われたら、ね?
「まぁ、これを使うと・・・婆さんから説教がついてくるから、あまり使わんが、手加減するのならこれぐらいが丁度よいわ」
「・・・ふぅ」
俺は悪くない。俺は悪くない。持ってきた爺さんが悪い。
よし!
爺さんは説教ついてくるのにそれを使うんですね・・・とかも思ったりしたが、物干し竿VS木剣&大楯が始まる。
使い手に圧倒的実力差があったら、そりゃ・・・物干し竿でも、強いわ。
「障害物がないとさすがに一方的になるのぉ・・・そうじゃ!少し森へ行くぞ!ついてこい!」
木や木の根という障害物、庭より圧倒的にデコボコな地面、突然顔面に襲い掛かってくるバッタのような生物・・・庭よりさらに一方的になる稽古。
ガサゴソと落ち葉などを踏んでいる爺さんの足音は、めっちゃ聞こえて、位置は分かるのに・・・当たらない。ていうか、距離を詰められない・・・当たりそうなときは木剣が枝とかに引っかかるときがあるのに、爺さんの物干し竿は引っかからないし・・・それは俺が大ぶりなだけか・・・。
「はぁはぁはぁ・・・」
「そろそろ暗くなる前に戻るかのぉ・・・」
そして、2人仲良くお婆さんから怒られたのであった。
俺、使ってないのに・・・使うというより、盾と身体で防ぐというか、痛めつけられるだけだったような気がするのに・・・理不尽だ。いや、お婆さんの目の届かない森での訓練っていう爺さんの誘いに乗ってしまったのがそもそもの間違いだったよな・・・あぁ、正座辛い。
『森 嫌なとこ』で検索をしたら、あれの闇を見てしまった・・・