123.
「おぇ・・・」
俺は外で1人吐いてた・・・なにこの爺さん・・・強い。ていうか、木剣でやるなら・・・剣あとで返してくれても、良かった気がするのだが・・・いや、返してもらった時に安心したから、それはいいか。
「だらしないのぉ・・・ほれ、水じゃ」
そこには桶を汲みに行っていたガゼルが、こっちに水の入った木のコップを差し出していた。
「はぁ・・・はぁ・・・飲んだら、また吐きそうな気がする」
「まったく軟弱じゃのぉ」
「はぁはぁ・・・あんたから腹に一発もらったおかげでな・・・おぇ」
これ絶対普通の食後の運動じゃない・・・ただただ食事が俺のお腹の中から逆流してるだけや・・・
「それにしても、ふむ・・・・おぬしの剣は独学なのじゃろうが・・・それにしてはおかしいのぉ、足運びなんてのはほぼほぼ素人なのじゃが、斬る姿勢ができすぎておる。斬る才能だけがあると言ってしまえばそれまでなのじゃが、その才能が足運びに一切の影響を及ぼしていないのを見ても、何者かがおぬしに意図的に剣術を中途半端に教えたと思うんじゃが?」
「・・・」
俺の前で1人悠々とコップで水を飲みながら、そう話を続ける。
「中途半端に教えるということは旅の冒険者か・・・それとも悪意あるおぬしの親族が教えて、無謀にも魔物と戦わせて殺すためか、考えても分からんのぉ・・・おぬしはどうだと思うかのぉ?」
ギラリと光るようなその眼光を受け、いったん呼吸を忘れそうなほどの威圧を受けた後に、こちらのことを探るかのようにそう声をかけてくる。
「・・・旅の人に教えてもらっただけだ」
「ほう・・・そうかそうか、なら、そういうことにしておこうかのぉ」
絶対信じてないこの人・・・そう俺の勘が囁いているような気がする。。
「少しそれを矯正させてやろうかのぉ・・・もしもの時に戦える奴がいるのはいいことじゃしのぉ、最近じゃ、わしの練習相手に誰も志願しなくなったからのぉ・・・」
なんか・・・・・最後のほうに不穏な言葉が聞こえたような気がするなぁ・・・・逃げるか、いや、泊めてくれそうなとこも知らないし、それに俺・・・お金って持ってきてたっけ?それに野宿をするにも、食料の保存食もほぼほぼ尽き欠けている・・・街道に出て他の村を探すにしても、ここがマリウスによれば、辺境の人のいい村だし・・・森で倒れていた不審者みたいな俺だからなぁ・・・
「わしの練習相手になるなら、客人として、わしの家に泊めて、それに飯も出そう・・・おぬしの居心地が悪いと思ったなら、この村を出ていっても構わん・・・じゃが、盗みなどしたら、わしが殺してやろう・・・まぁ、そのようなことしたらの話じゃがのぉ、はっはっは」
「・・・」
あれはマジなやつだ・・・マジなトーンのやつだった・・・そうだ・・・うん、仕方ない。この村で働けそうなところを探そう・・・住み込みで働けそうな仕事を技術はないか・・・こんな怪しいのを泊めてくれて、飯まで出してくれるってとこなんてガゼルさん以外に他にないだろう、たぶん・・・これで経験を積んで、お金を稼いで・・・旅に出るんだ・・・きっと。
「それでどうする、おぬしは?」
「・・・よろしくお願いします」