122.
そして、今現在椅子に座らされている。
周りをきょろきょろと見渡してみても、俺の剣らしきものは見当たらずに、目の前の食卓には黒いパンと牛乳?白い液体と爺さんの嫁であろうばあさんが入れてくれたスープがあった。
「いやー村の者が倒れているお前さんを見つけてなかったら、今頃ゴブリンの腹の中じゃったかもな。まぁ・・・そうなる前にうちの村の自警団どもがゴブリンくらい追い払うがのぉ・・・はっはっは、まぁ、腹も減っているだろう、とりあえず食え食え」
グゥと腹の音が小さく、自分の耳ぐらいにだけ届く音で聞こえた。
「え・・・えっと、いただきます」
爺さん、婆さんがスープなどを食べるのを見てから、一応口にした・・・自分の飲み物にだけとか、食器だけに毒とか入れられていたら意味なんてないんだけど・・・。
「・・・ふむ、そうじゃった、そうじゃった、わしの名はガゼル、この村の村長をやっている爺じゃ、こっちがわしの嫁さんのヘレンじゃ・・・さて、お主の名は?」
「あぁ、俺の名前はユウキっていうんだ」
「そうか、ならば、ユウキよ、なぜ街道からではなく、森のほうで倒れていたのか、わしに教えてくれんかのぉ?」
「いやぁ・・・あ、うーん」
これって・・・どう答えるのが正解なんだろうか?転移して、えへへ、ずっと南に行けって言われてた・・・とか全然アウトだよね、意味わからないよね。たぶん、えーーーでも、ずっと森を彷徨ってたなんて、方位磁石あるのになんで迷うんだよ!?あ、うん、地図が風に飛ばされて・・・いや、地図持ってる時点でなんか旅人じゃないよな。簡単な地図なら・・・そもそもあまり必要ないって言われそうだしな。魔物に襲われて剣に血の跡なんてないし、あるとしたら・・・皮鎧に血と替えの服に血が洗い流したしな・・・どうしようどうしよう。
「ふむ、何やら答えにくいそうじゃな・・・まぁ、よい、近くで山賊に襲われたり、魔物に襲撃されて逃げてきたかだけでも教えてはくれんかのぉ?」
「いや・・・山賊やら魔物にも、道中会わなかった」
「ふむ・・・そうか、ならば、もう聞きたいことは聞いたし、よいかのぉ婆さんあれを持ってきておくれ」
そう言って、婆さんは爺さんの飲み物のコップ以外を片付けて、どこかへといった。
「ふぅ・・・わしはお前さんが山賊の下見か何かを疑っていたんじゃが・・・これはなさそうじゃな・・・」
「ん?そんなことを話してくれたってことは、俺のことを信用してくれたってことでいいのか?」
余所者を・・・しかも、街道からじゃなくて、森から来る人なんて怪しさ以外ないよね・・・うん。
「まぁー今のところはかのぉ、目に見えての盗賊など、そういう荒くれ者にも見えないしのぉ」
「ところで・・・なんで外してくれたんだ?」
ちょこちょこと固いパンをスープに浸して、食べながら・・・聞く。
「その食べ方じゃ、食べ方・・・冒険者や荒くれ者にそんな食べ方をするやつはおらんよ。わしらみたいにそのパンごと皿に突っ込んで食べるからのぉ、はっはっは・・・貴族やある程度生活に危険がない都市部の連中ぐらいしかそんな食べ方はしないのぉ・・・まぁ、事情は分からんが、お主も訳ありじゃろ?お主がこの村の害にならない限り、この村にいてくれて構わん。まぁ、畑仕事やらなにやらは手伝ってもらうがのぉ・・・それにお前さんの敵が来た場合はわしらは容赦なくお前さんを引き渡すってことを覚えておいてくれれば、いいかのぉ」
「追われてないって・・・」
「嘘じゃろ、それ・・・道中魔物やら、山賊以外の何かに襲われて、街道から逸れて森の中を歩いてきたんだろう、お主は」
「・・・本当に追われてない」
じっと爺さんの目を見て・・・そう言ってはみるが・・・
「・・・はぁ、言いたくないのならこれ以上は聞かんわい」
そう言われて、話を打ち切られたと思ったら、そこで後ろから婆さんが・・・何やら見覚えのあるものを爺さんに手渡していた。
「お、おう」
「ほれ、お主の剣じゃ」
それをこちらに投げ渡してくる。
「うぉっと・・・ありがとう」
地味に投げられて、重い。
「そんな綺麗な剣でよく森を抜けて、この村まで辿り着けたもんじゃわい・・・よし、食後の運動じゃ、付き合え」
そうして・・・まだ食べ終わって間もないのに・・・引きずられていく・・・食後の激しい運動とか、俺吐くよ?吐いちゃいますけどいいんですか?なんて・・・言えるはずもなく・・・ただ引きずられていくのであった。