120.
右手に方位磁石を、左手に枝を杖みたいにして歩んできたホムンクルスの旅・・・8日目・・・ついに村が・・・村が見えた!!!
そして、その歓喜の一歩を踏み出そうとした瞬間に、何も入っていない口の中から、懐かしくも忌々しいあの味がした瞬間・・・俺の意識は現実へと引き戻された。
次に目が覚めた場所は見慣れた自分の部屋だった。だが、いつもはこの部屋にいないはずの人物が寝ている俺の横で椅子に座り、本を読んでいた。
「・・・戻すタイミングが的確過ぎて怖い」
口の苦味がまだ口内に残っていて、少し気分を落としながらも、横にいるマリウスへと声をかける。
「3時間くらい寝ていましたよ・・・それに僕は何かしらのホムンクルスのマスターを観察するぐらいの手段は持っていますからね。当然狙って飲ませて、起こしましたよ」
俺の部屋にある時計を見ながら、そう答えたマリウスは読んでいた本を閉じて、こちらのほうへと視線を向ける。
「3時間か・・・良く寝てたな、うん・・・それで疑問なんだけど、なんで俺いつもの感覚で元の身体に戻れなかったの?」
起こしてくれなかったのを聞くのは・・・まぁ、うん、最終的に起こしてくれたからいいとしても、なんで自分からここに戻ってこれなかったという疑問が俺の中にはあった。・・・あの丸薬を飲まされて3時間気絶していたのか、3時間疲れて眠っていたのか・・・どっちだろうなとか、そういう疑問もあったけど、うん・・・前者のほうな気がするから、聞かなくてもいいか。
「あぁ・・・それはマスターがホムンクルスに憑依したまま転移したからですよ。戻る身体の距離なども分からないですから、戻る器の場所を知らずして、どこにその魂を流し込むことができましょうか?無理やりしたとしたら、一生マスターは寝たきりで、魂はそのまま虚空を彷徨って、誰にも知られずにこの世を終えることとなったでしょうね」
「・・・説明って大事だと思うんだ。俺の意のままに操れるとかそういう説明だったような気がする・・・憑依とか聞いてないです、はい」
「憑依のことを分かりやすくマスターの意思のままにホムンクルスを動かせるって言っただけです。それに最初からマスターがホムンクルスに憑依したままだったので、別にいいかなと・・・最悪の事態は僕があれを無理やり飲ませますので、最悪の事態が起こるわけもないですけど・・・僕が見て居なかったら、そういう可能性もあったということを言っておきたかっただけです。で、どうでしたか?サバイバルの生活をやってみて」
「疲れた・・・」
マリウスはそう沈み込む俺の表情を見ながら、笑顔を浮かべながら、森でのサバイバルの話を聞いてくれた。
「ふふふ、そうですか」
「そういえば、今俺のホムンクルスはどうなってるの?」
そんなことを話していると・・・自分のホムンクルスが今どうなっているか気になった・・・魔物とかに襲われたりしていないよね・・・?
「ん~今頃猟師か、それとも普通の村人かは分かりませんが、倒れているマスターのホムンクルスを見て、何かしらをしていてくれるでしょう」
「追いはぎされたり?」
「なんで、その発想が真っ先に来るのかはわかりませんけど・・・転移陣書く時にちゃんと言いましたよね?辺境だけど、人のいい村だって・・・ちゃんとベットに運んだりして、休ませてくれていますよ」
「・・・ベット、なんていい響き」
「毛布にテントって恵まれているほうですよ。しかも、夜に魔物の襲撃を一切気にしないでいいなんて・・・」
「こんな恵まれている環境からどん底な生活環境に落ちる辛さを味わった」
水洗トイレ、お風呂、美味しいご飯、安眠、ゲーム、退廃的なポテトチップスや炭酸飲料・・・この世の天国だったんだ、ここは・・・。
「なら、旅やめます?今ならホムンクルスに無茶な事させて、森の魔物とかに殺されますよ?」
「・・・やる」
この世の天国から刺激を求めて旅に出たんだから・・・この程度の誘惑に・・・負けない・・・・・・あとで、お菓子と炭酸飲料購入してこようかな・・・。
「はい、なら、頑張ってくださいね、前のように戻れなくなるってことはなくなるとは思いますけど、長時間あっちに行かないでくださいね」
「夜になったらベットを求めて、こっちに帰ってくる」
「・・・旅って何でしょう、いえ、昼にあっちにいるなら・・・・うーん、ホムンクルスもある程度の食事をしないといけないですから・・・ある程度の指示を出してから、戻ってきてくださいね」
「ふぁーい」
「眠いなら寝てください・・・あぁ、食事の後でですけど・・・気絶したってことにして、朝に目覚めるのも不思議じゃないですしね・・・」
こうして、戻る身体と、元の環境での生活水準にいつでも戻れるようになった。