110.
一旦、魔法の練習を終わらせて、瞑想するのもちょっと疲れてきたので、ごろごろと地面を転がっていたら、視線の先で本を読んでいるマリウスに気になっていたことを聞いてみた。
「そういえばさ・・・あれ・・・えっと、同時に魔法発動しようとしてもできないんだけどさ・・・それって年季の差?」
「才能です・・・もうすでに自分でやってたんですね、ですけど、同時に生活魔法が発動できることにあまり意味ないですよ・・・威力なんてないに等しいですし」
「同時発動はロマン」
「はぁ・・・そうですか、同時に魔法使うための慣れもありますけど・・・正直同時発動でも、生活魔法と攻撃魔法とかでは難易度が段違いですし・・・それによって生活魔法を先にしたら、攻撃魔法の時の同時発動に違和感を覚えるかもしれないということも考えられなくもないですね」
「後のことより今のこと」
「後のほうが生き残るためには断然大事だと思います・・・あぁ、でも、攻撃魔法で失敗したら怪我しますけど・・・生活魔法なら危険はないですよね・・・う~ん」
「俺にロマンを捨てろというのか」
「僕これでもマスターの先のことを心配していってるんですけど・・・あとで文句とか言いませんよね?」
「言わない」
「本当ですね?」
「ほんとのほんと」
「・・・はぁ・・・生活魔法の同時発動なんてあまり意味なんてないですけど、本当にいいんですね?」
「大丈夫だ、問題ない」
「・・・分かりましたよ、では、両手を出してください」
素直に両手をマリウスのほうへと差し出した。・・・そうするとなぜかあの時の地獄を思い出してしまった。
「あ・・・あのポーションが必要なら、やっぱりロマンは捨てて、のちの未来に託す」
「・・・マスターがちゃんと制御できるなら、必要ないですよ。でも、気絶しそうになってたら強制的に飲ませますけど」
「・・・」
二歩三歩と後ずさると・・・その分だけマリウスがこちらのほうへと詰めてくる。
「今さっきまでの勢いは何だったんですか・・・やりたくないなら別にやらないですからいいですよ」
あのまずさの極みにありそうなポーションを飲む可能性がある・・・だが、その先にはロマンが待っている・・・まずさか、ロマンか・・・俺は一体どうすれば・・・
「う~ん、なら、同時発動に3回以上失敗したら、役立つ生活魔法の使い方を教えましょう」
「それって・・・ポーション3回飲むってことだよね?」
「はい」
「・・・1回も飲まなかったらのほうがいいと思う」
「失敗にも何かしらの賞品があったほうが、心が折れずに頑張れると思いますよ?やるといって、僕が教えるんですから、できるようになるまでやらせますけどね」
「・・・」
3回失敗したなら・・・失敗は実質成功・・・2回で成功したなら、その2回は無意味なものに・・・同時発動ができるようになったってことだから、無意味じゃない・・・けど、あれを3回は・・・きつい。
「今なら・・・やめてもいいですけど、どうしますか?」
「・・・やる」
「なら、両手を出してくださいね」
そうして、ロマンを求め、俺の戦いはここから始まった。