101.
ある日の昼食終わりに、マリウスに尋ねてみたいことがあったので、尋ねてみた。
「あのさ・・・あの戦闘の初日の人形ってさ、まだあるの?かな~?」
ちらちらとマリウスの顔色を窺いながら、そう話を切り出してみた。
そうしたら、俺に前言われたことを思い出したのか、一瞬顔をしかめたが、すぐに元の表情へと戻り、こう返してきた。
「えぇ・・・別に壊したりするのはもったいないですからね。ちゃんとあっちの小屋のほうに置いてありますよ」
そう指は、いつかドンドンとうるさい音ともに目に映った小屋のほうを指さしていた。あのドンドンという音も、今は3人一緒に昼飯を食べていてすぐだからなのか、その音は聞こえていない・・・食べてすぐに動くなんてことは貧弱な俺の貧弱なお腹が痛くなるから、イオルも軽めにやっているのか、それとも子ども的にお昼寝なのかな?そんな想像を膨らませながら、そちらのほうに向かって歩き出した。
「これがないと動きませんよ?」
そんなことを言いながら、どこからともなくコントローラーを取り出した。
「普通一緒に置いてあるものじゃない?ゲームとゲーム機って?」
マリウスのほうへと、とぼとぼと戻りながら、そう言ってみる。
「人形と制御装置です。分けているのは、イオルが小屋のほうで見つけて動かさないようにですよ・・・これがなければあれは動きませんし、それに・・・僕は最近マスターのほうを見ているので、あちらで何か起こったとしても、少し対応が遅れますしね・・・できるだけそういう危ないかもしれないっていうものは排除しているんですよ・・・・それに夜マスターが勝手に動かさないためにも僕が持ち歩いてるのもありますけどね」
「ここから小屋まで近いよ?・・・疲れているときにわざわざやるより、パソコンでゲームしてたほうがいい!」
やってみたくはあったけど、置いてある場所とか知らなかったし、もし見つけてあったとしても、マリウスにバレたら、バレたで次の日にやる素振りや模擬戦が倍は辛くなるだろうから、やってなかったなんて言わない。
「近いといっても、悲鳴が上がった時や鈍い嫌な音がしたときはもう手遅れ・・・かもしれないですしね・・・マスターなら僕の目を盗んで、やるかもとは思ったんですけど、ダンジョンコアなどでやっているほうが高性能ですもんね」
「でも、やってみたいんじゃ~」
「はいはい、別にいいですよ、少しくらい昼食の間に時間あいても・・・その分は・・・今回は別にいいです、でも、15分くらいですよ?」
そう呆れながらも、持っていたコントローラーをこちらへと渡してくる。
「はは~」
「はぁ・・・なんでマスターが僕を拝むんですか・・・イオルもあっちに行ってますし、僕が持ってきますよ」
そう言って小屋のほうへと向かっていった。
「・・・コントローラーこっちに手渡して、マリウスは・・・担いでこっちに持ってくるのかな・・・」
そうしているうちに、ゴゴゴゴゴという音とともにマリウスの横を・・・歩く?・・・いや、地面に運ばれながら、あの人形がこちらへと向かってくる。
「ほへ?」
「魔法ですよ・・・人形の足がついている範囲の地面を動かして移動させているだけです」
「魔法の無駄遣い?」
「いいんですよ・・・どうせここにいるときに大規模な魔法なんて使う事態なんてそうそう起こりませんから、こう無駄遣いをしたとしてもいいんです!」
だったら、俺に教えるのだって・・・いいんじゃないでしょうかね・・・なんてことを顔に出しながら思っていたのだろうか、次にマリウスがこう言った。
「魔法を使うのと魔法を教えるのは全然違いますよ・・・ホブゴブリン3体相手に勝てるぐらいになれば・・・魔力ぐらいは感じさせるようにしてあげてもいいですけど・・・」
「・・・ホブゴブリンってどのくらい強いの?」
ファンタジーゲームとかでよくある名前を聞く、ダンジョンコアにも書いてある名前・・・いや、ゴブリンが普通のか、リーダーとかしか・・・あ、農家もか・・・ホブゴブリンはこのダンジョンにいないからどのくらいの強さなのかわからない・・・。
「ゴブリンの普通の進化ですよ、体格が大きくなって、筋肉も増えますから・・・普通に強いですよ?」
「・・・それって教える気はあるのかな?」
「勝ったら入門の少しだけは教えますよ?」
「・・・・」
え?勝てるわけないじゃない?という目線をマリウスに送っていたら
「本当ですよ?」
「・・・」
「それにしても、人形早く動かしたいのなら動かしてくださいよ?やらないなら、素振りやらせますよ?」
そうして、俺はコントローラーで人形を動かし始めるのであった。