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泥のダンジョンマスター  作者: ハル
104/255

97.


 その日は・・・農作業をし終わった後に、ふと・・・そうふと口に出してしまったことがきっかけではじっ待ってしまった悲劇。いずれ起こったであろう・・・悲劇、それは偶然かそれとも必然か、今日この日におこってしまったのであった。




「うがぁぁぁぁぁ!!!死ぬ!!マジで死ぬ!!!ガチでマジで死んじゃう!!!そんなにできないのぉぉぉぉぉ!!!」


 叫ぶ俺の声が農場全体へと響き渡り、なんだなんだとゴブリンたちがこちらを見に来たが、ダンジョンッマスターである俺が死ぬようなことではないかと思ったのか、すぐさま踵を返した・・・その悲鳴の原因が何があるかは理解してはいないだろうが、自分たちがどう足掻いたところでどうしようもない人物が自分たちの上位者の近くにいるという安心感からなのか、それともただの自分も巻き添えになんかなりたくないという恐怖心からなのか・・・遠目で見ただけでそれ以上は近寄っては、確認には来ないで、元の作業へと戻っていった。


「大丈夫です、叫ぶ元気があれば死にませんよ・・・死にはしませんよ」


 その俺の悲鳴の原因であるマリウスは・・・酷く楽しそうな声音でこちらに大丈夫という根拠のない言葉をかけてくる。


「いや、死ぬとか嘘です。折れます、腰が、物理的に」


 後ろから俺の背中をゆっくりと・・・だがしかし、確実に力を込めて、こちらの手をを足の付け根まで届かせようとしてくる。太もものほうの筋肉が伸びて・・・伸びて・・・・ち、ちぎれる!!


「・・・大丈夫です、折れた分だけ強くなりますよ?」


 そう言いながら、少しこちらに加える力を緩めてくる。だんだんと無理に伸ばされなくなったからか、太ももから徐々に痛みが引いていく。


「なぜに疑問形なんだよ!たぶんそれ腰の骨が太くなるか、脆くなるかの間違いだよ、それ絶対・・・イタイイタイイタイ」


 こちらが油断している隙に・・・背中を物理的に押され、また元の状態へと戻っていく。


「ほら~押しますよ」


 背中側から押しているから顔こそ見えないが、俺にはあの声音で分かる・・・絶対楽しんでいると、満面の笑みを浮かべながらこちらの背中を押していると。


「言う前から押してるやないですか、覚悟を覚悟を決めるだけの時間の御慈悲を」


「そんなことを言ったら平気で一時間に1回ぐらいになるじゃないですか・・・」


「人は曲がる生き物じゃないんだ、イタイイタイ、ちょ、やめて、ストップ、折れる折れる」


「もう少しいけるんじゃないですか?たぶん」


 根拠のないマリウスの自信で背中を押され続け・・・そして、この前屈が終わったら・・・前に増えたランニングをして、夕食だ・・・・。これ日課に増やすならランニングのほうを免除してくれないかな・・・


 そんな甘い考えが認められるはずもなく、ただ・・・走った。昨日の2倍。



 いつもとは違う普段着を身に纏い、頭からかぶった白いバスタオルで風呂上がりのまだ少し濡れている髪を拭きながら、その翡翠色の瞳でいつもならもう自分の部屋に戻っているであろう目の前のモノについて、まだうっすらと身体から湯気が出ている温かい頭で考える。


「オォォォォォ」


「なんであれ腰を手で当ててピクピク痙攣してるんですか、イオル」


 部屋の隅からこちらを恐る恐るという感じで見つめている同居人?いえ、子どもに尋ねる。


「押しただけ」


 そうただ一言返してはいたが、この状況になったのは自分のせいだということは自覚しているのか、いつものような声の平坦さは感じられず、ただ・・・不安そうにこちらを見つめていた。


「・・・・どのくらい力でですか?」


「いつもぐらいの力で」


 そう・・・自分にあの時の行動を思い返して、自分がしたであろう力を何もない空中を押して確かめるかのようにそう答えた。


「あぁ・・・イオルは先に自分の部屋に入って寝ててくださいね」


 少しマリウスは考えた後に、イオルにそう告げてた。


「ん」


 マリウスとそのモノをちらちらと見ながらも、マリウスに言われたとおりに自分の部屋へと入っていった。


「はぁ・・・さすがに治癒魔法をかけなきゃですね、苦手なんですけどね・・・」




「限界を知らない奴に押すのを任せるのは自殺行為に等しいということを学んだ」


 復活した俺はそう初めに切り出した。


「・・・・そうですね、本当に」


 その言葉を同意するかのようにうなずきながら、なんでそんなことをしたのかという目でこちらのほうを見つめているマリウスがいた。


「・・・いや、これでなにかしらの会話のきっかけになって、懐いてくれないかな。なんて淡い期待をしていた自分もあったが、もうイオルにこういう接近の仕方なんてやめようと思う」


 この頃では、自分が農作業で汚れた身体を洗うために一番風呂をしていた俺。そして、次に汚れているイオル。最後にマリウス。の順番でお風呂に入っていた。そして、今日はランニングに一緒に走ってペースを見るために準備体操をしてマリウスに「マリウスに身体柔らかいよね・・・ありえない」なんて言わなければ、こんな悲劇は、こんな接近方法は起こらなかったであろう・・・・いつかは身体硬いのがばれてやらされたとは思うが・・・。


「あ・・・はい、そうですね、イオルにも一応手加減というものを僕が教えなきゃいけないんですかね・・・マスターがこの調子だと・・・こういうのはもっと同年代の子たちがいて、その子たちと遊んでいくうちに他人へのそういうのを学ぶはずなんですけどね・・・言ってもどうしようもないことですね」


「・・・」


 え・・・うん・・・それって・・・俺がイオルと遊べばいいということか・・・・下手したら肉体が引きちぎれちゃう。


「ゆっくりで、少しずつでいいですから、会話で距離を縮めようぐらいはしてあげてくださいね」


「・・・会話だけな・・・肉体言語は無理だし、手加減的にああいう体操でも身の危険を・・・命の腰の危険を感じた」


「助けるってマスターが言ったのに、僕に結局のところ色々押し付けているんですからね」


「・・・お、おう」


 まずは会話か・・・何から広げれば・・・いいんだろう・・・ゲームか、農場か、ランニングは完全に負かされそうでいやだな・・・そんなことを考えながら、いつもよりは早い時間だったけど、自分の部屋で大人しく寝た。




「まぁ・・・最初の頃は練習用にダンジョンから借りてきた人形をバキボキ折っていましたけどね・・・それに比べて今は手加減して殴ったりしても大丈夫になったんですけど・・・・はぁ、脆い人間を相手にするときの手加減を教えなきゃですか・・・マスターを基本としたらどれだけの手加減を教えればいいのか」


 そんなことを言いながら、マリウスの自分の部屋へと帰っていく。

 また台風が・・・・。

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