94.
雨の日も風の日も・・・嵐の日だって、俺はこの畑を守り続け、育ててきた。
辛く涙を流すときも、守れなかった無念さを味わうことだって、あった。
だが、ついに・・・収穫の時がやってきた。
「ダンジョン内なんですから・・・いつも晴れなのに・・・何を言っているんですか・・・」
収穫の日は、畑と自分で言えるほどに耕して、種を植えてから一週間だった。
一週間だ、そんな短い期間でこんなににょきにょきと簡単に生えてきたんだ・・・でもな、それだけ簡単に野菜が育つとな・・・
毎日の畑の周りの雑草も凄いことになっていたんだ・・・
雑草が生えているとその野菜とかに栄養が十分にいかなくなって、美味しくなるとかなんとかをどっかで聞いたことがあるから、毎日毎日抜いて、それで毎日の生活で使わないような筋肉を酷使して・・・
そのせいで、トイレに座るときっだって、本来は一人っきりの個室で誰にも邪魔されずに、そこで用を足すための場所なのに、座るときにふくらはぎにくる筋肉痛による痛みと、立つときにほんの少し力を入れて行為だけなのに・・・たったそれだけなことなのに、このふくらはぎの痛みは俺からこのすっきりとした感覚を奪い取って、苦痛の時間へと変えていったんだ。
そして、同時に気づいた。
ベットに横たわるという行為がどれだけ人に安らぎをもたらしてくれるのかを、苦しみを知らなきゃ、その本当の意味での安らぎという物は経験できないんだなってことを知ったんだ。
でも、その数々の雑草と筋肉痛という試練を乗り越えて、俺はここまでたどり着いたんだ。
「早く収穫してくださいよ」
俺の右手には鎌・・・左手には盾・・・前方には元気に動き回る野菜たち。
「ここは俺の育てていた畑ではないのかもしれない、うん、きっとそうだ」
だが、見てしまった。見つけてしまった。毎日自然に目が移るところにと、自分がこの畑を育てているのを実感し、達成感を味わうために設置した。俺の畑という看板を・・・。
「ふぅ、ちょっと疲れてるのかもしれない」
そうあれは幻覚だ・・・幻覚なんだ、そうだ、そうに違いない。
一度目をそらして、ゴブリンたちの農作業風景を見る・・・そういえば、なんでゴブリンが畑の世話しかしてないのに、進化させていない農家ゴブリンなんかになっているのかと思っていたんだが・・・よくよく見ていれば・・・まぁ、あっちのも収穫されるときに蔓なんかでゴブリンを攻撃しているわけですよ・・・それを手早く刈り取っているゴブリンたち。
「・・・・この野菜って普通?」
「・・・?毎日の食卓に出る美味しい野菜ですよ?」
おう・・・マリウスさんから見てこれは別におかしくないってことですか?ね?そういう意味ですよね・・・これ。
「ふぅ・・・明日でもいい?」
逃げることにしよう、勇気ある撤退も必要だ。この俺に農作業からいきなり収穫戦士になれなんてことは無理なんだよな、うん。
「明日になると、もっと野菜が地面から栄養を取って、大きくなって、大味になりますよ?」
・・・これから難易度上がるの?え?戦闘経験なしのマスターにこれと最初から戦えっていうの?え?鍛えるって言ってからまだ一か月もたってないよ?鍛える内容も農作業って言われてたから、俺戦闘訓練なんてしないで、毎日鍬で耕してと桶で水運んで、素手で雑草抜いてただけだよ?それをいきなり暴れる野菜を収穫せよ・・・いや、倒せなんて・・・俺の知ってるゲームのほのぼの農作業ゲームと違うよ・・・。
「殺草剤とかは・・・」
「なんでただ収穫するだけなのにそんなことをするんですか・・・そんなの出すなら、最初からマスターに雑草抜きなんてさせてませんよ、味も悪くなりますし・・・」
「・・・」
俺はこれを刈る・・・いや、狩るしかないのか・・・
「???」
「逝ってくるか・・・」
「そんな気負わなくても・・・」
そして、蔓による往復ビンタ、実による顔面投擲、根っこによる・・・こちらからの逃走。
数時間たって・・・やっとのことで、回収・・・いや、収穫できた。
「今日はこれを料理させますから、楽しみに待っていてくださいね」
マリウスはそう言って籠一杯に入った野菜を料理人形のほうへと運んでいく。
その日の野菜は・・・初めて自分で獲ったものだからか、少し傷口に沁みたけど・・・、
妙な達成感と、美味しさがあった。
でも、同時にこう思った。
「いつもの野菜のほうがおいしいなと・・・」
ちょっと脱出ゲームをやってて忘れてた・・・・
マリウスさんは、このダンジョンにきてから農作業をちゃんと見てたので、ここではこういうのが普通という認識となっています。適応したのだよ・・・・この農作業に。