1.ダンジョン視点
「知らない天井だ」
目を覚ました佐原幽鬼は見上げる天井を見てなぜだが、そのようなことを言わなければいけないという使命感に囚われ、呟いてしまった。
頭はすっきりとしている、手も足も正常にいつも通り動く、正常な足取りで、周りを見回してみる。
そこは全く見覚えのない薄暗い空間だった。
いつも暮らしていた部屋の広さだ…いや、いつも暮らしていた…
六畳ほどの部屋、彼が寝かされていた粗末なベッド、周りには燭台と灯りの灯っている蝋燭、そして周りの壁は石でできていた。
「………おいおいおい、なんの冗談だよ、これ」
状況を全く呑み込めていない彼、ふとなんだか、この部屋に見覚えがあるような気がして来た、いや、彼はこの部屋を見たことがある。
「……あれだ、あれ!あと少しで思い出せそうなんだが」
彼がもう少し辺りを見回してみると
さっきは気がつかなかったが、自分の寝ていた横の机に何か紙の束が置いてあることに気づいた。
「……初心者でもできる簡単ダンジョン運営?」
そうだ、と彼は思い出した。
「……昨日買ったVRMMOじゃねぇか」
全世界で圧倒的人気を誇ったダンジョンシュミレーションゲームだった。
そのゲームを徹夜でプレイして、少し浮かれていたのだろう。
その日の通学路の横断歩道で、普段なら信号が青でもしっかり安全確認をしていたはずなのに、信号無視をして来た大型トラックに跳ね飛ばされ、彼はそこからの記憶は一切ない。
「普通跳ね飛ばされて、五体満足とかどこの超人だよ、それとも俺は幽霊か?」
そう思って、彼はおもむろにベットのシーツに触れて見た。
「触れるし、なんかちょっと臭い気もするけど、体も暖かい……現実か?」
こんなリアルな触感や匂いががなければ。VRMMOをやっていた途中に寝落ちして、車にひかれる夢を見たと思っただろう。
「ゲームに寝る機能なんてなかったし、手触りはもっと無機質だった。匂いがあるのもおかしい。GMコールができないなんて……」
そして、彼は状況を受け入れた。
「考えたって仕方ないし、どうせ現実で死んでなくても介護生活確定だし、うん、五体満足で動けるファンタジー大いに結構!」
ただの馬鹿だったのかもしれないが
「さて、今さっき見ないふりをしてた、この物体だが、どう見てもゲームのダンジョンコアなんだよなー」
好奇心は猫を殺す、とこの場を表現すれば正しいだろう。一度死んだ人間にそのようなことなど、否、彼にはそのようなことなど関係なかったのだが、数瞬後、彼は躊躇なくダンジョンコアに手を伸ばした。
「ウギャァァァァァァァァァ!!!」
彼の絶叫が部屋中に響いた。