キモダメシ×ハツドウ
二話連続投稿の二話目です。今回は文字数が多めです。残酷な表現があるので注意してください。
遂に始まる肝試し。俺は一ノ瀬やイケイケ組女子と同じグループになってしまったことで、不安感MAXだ。まぁ、どうせ一ノ瀬にハブられるんだろうけどな。
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「それでは〜、1グループ目。行ってらっしゃい〜!」
雪風先生(女性職員は誘導係)の掛け声によってスタートした肝試し。
「よっしゃー!行こうぜ佳奈!」
「いやーん、こわーい」
「「ちっ」」
「……」
先頭で懐中電灯を持った一ノ瀬とイケイケ組女子、改めまして佳奈さんがイチャイチャして、飯盒炊飯の時の女子二人がその少し後ろでブスっとしている。そして俺はそのさらに後ろをボッチでついて行く。
なんだこのカオスは。
俺は高校に青春しに来たんだぞ?なんで暗い道を一人で黙って歩かなきゃ行けないんだ?ギャルゲーはめっちゃやってきたけど、こんな切ない状況は未だかつて見たことねぇ!
そんな感じで、俺が無言でこの状況を呪っていると、なにやら前が騒がしくなっていた。
「「「きゃぁぁああ!!」」」
「ぴ、ぴぇぇえええ!!」
悲鳴をあげたと思うと、前の4人が一斉に走り出す。※で走るなって書いてあったの見たのか?
どうやらジェイソン(芸人じゃなくて第三金曜日の方な)に扮した大柄の先生が脇道から現れたらしい。
ていうか女子のキャー!は分かるけど、一ノ瀬、ぴぇぇ!ってなんだよ……クソだせぇ。
俺、冷静に思考してるけど、これついて行かなきゃ駄目じゃね?
そう思った俺は即座に駆け出した。のだが、全く4人の姿が見えない。足速すぎないか?いや待て、近くの山道の分かれ道のところで息切れしている声が聞こえる。
「おーい!」
「私、佳奈よー!ってアンタ誰?」
イケイケ組女子の佳奈さんですか。話しかけづらいなぁ。
「あ、あの、ってその傷どうしたの!?」
自己紹介をしようとして彼女の方をしっかり見ると額から血が流れていた。
「あぁ、さっき転んだのよ、って痛い!」
そう言ってひとまずこっちの方に来ようとするが、その場に倒れ込んでしまった。額だけではなく足の方もやってしまったようだ。
「待って、1回診てみるから。とりあえず額は絆創膏で大丈夫だろ。んで足の方は、うわっ、めっちゃ腫れてる。これは先生呼んでくるしか……」
俺が常備している絆創膏を佳奈さんの額に貼りながらそう言うと、佳奈さんは俺の腕をガシッと掴んで、2本の分かれ道の本来のルートとは違う方を指差して必死に訴えてきた。
「待って!潤たちが向こうに行った気がして、だから危ないかもしれないの!」
『この先は土が柔らかく、急勾配なルートなので要注意!』
確かにこれは緊急だな。アイツらなら行っていてもおかしくない。
しかしこの看板、あからさまにやばい雰囲気を醸し出してやがる。でもこれ、行くしかねぇよな。
「じゃあ、佳奈さんはここでまっ……」
「嫌よ!私も行くわ!」
そう言って無理矢理立ち上がって、「文句があるなら言ってみなさい」とでも言うように俺を睨みつけてきた。はぁー、強気だなぁ。
「分かったよ、でも無理は駄目だよ」
「分かってるって、さぁ行きましょ」
そんな感じで俺たちは、今日の雨の影響もあって、すごくぬかるんだ坂道を登っている。しかも懐中電灯も持ってないし。焦って転ぶのも危険だからゆっくり行くしかない。
「そういえばアンタってさぁー……」
その時に苗字とか色々聞かれた。俺はそれに、案外フレンドリーなんだな、とか思いつつ受け答えをした。
「あ、そういえば神崎って好きな人とかいないわけ?」
嘘だろ、今日初対面なのにそんなこと普通聞いてくるか?
「う、うーん、今のところいな…」
「なーんだ、つまんないの」
即答か!今のタイミングでその質問だったら、「じゃあ私と付き合ってみる?ふふ」とかじゃないのか?まったく思考が理解できん。
そしてぬかるんだ坂を登りきり、前にはまだ道が続いていたが、そこに一ノ瀬達の姿も、ライトの光も見当たらなかった。思えばさっきの坂を全力疾走したら普通に転んでておかしくないよな。
「あー、私の勘違いだったかも。付き合わせちゃってごめんね」
「あ、別にいいよ。じゃあ佳奈さんの怪我も心配だから下に降りて先生探してくるよ」
「ぷっ、なに?佳奈さんって、佳奈でいいし。じゃあ、私もとりあえず降りよっ……」
佳奈さんが「坂を降りる」というフラグを立てた瞬間に世界が止まった。俺、神崎優真以外の誰も、何も動かない。この世の全てが停止した。
まさか高校入ってすぐに事が起きるとは、俺不運過ぎるんだけど。
そう愚痴を言いながらも、俺は目を瞑る。そうすると、真っ暗な視界の中に文字が浮かび上がってきた。
対象者 寺田 佳奈
時 9.145秒後
場 対象者ガ降リヨウトシテイル坂
因 転落時ニ頭ヲ強打シテ死亡
デハ、『死観』ヲ始メヨウ。ソノ眼デジックリト味ワエヨ?
その全身の毛が逆立つような冷たい声を境目に、夢の中へと入るようなわけのわからない感覚が全身を包んだ。
俺の目は瞑ったままのはずなのに、勝手に瞼が開かれている。
そこは視界に入るもの全てが赤黒くなっているが、場所などはまったく変わっていない。
自分でたしかめた訳ではないけど、ここは簡単に言うと人間の常識など当てはめられない異常な場所、「神の世界」らしい。
ていうか、そこに飛ばされてる俺はどういう扱いなんだよ。
「ぷっ、なに?佳奈さんって、佳奈でいいし。じゃあとりあえず降りよっか」
この世界の時間は止まることなどない。ゆっくりと坂を降ろうとする俺と佳奈さん。
ちなみに俺はこの神の世界で自由に身体を動かすことは出来ない。そして、ちょうど9秒経った頃だろうか。
「キャァア!!」
佳奈さんは足を滑らせ、ぬかるんだ坂の一番下まで転がり落ちて行った。俺は自分の体が操作出来ず、勝手に足が運ばれるようにして彼女の元へと向かった。
み、見たくない。止めてくれ!
そこには開かれた眼に生気がない佳奈さんが横たわっていた。
さらに近づいていく。
もういいだろ?充分だって。
身体中が坂の泥土と自らの血で泥々になっていて、腕も足も変な方に折れ曲がっている。まるで壊れて打ち捨てられた人形のようだった。
意志とは反対に、佳奈さんの前で膝をついた。
咄嗟に目を瞑ろうとしたが、この世界では瞬きすら許されない。
俺は強制的に佳奈さんの頸動脈に指を動かされて、本当に死んでいるのか確かめさせられた。
脈の反応は一切無い。確実に死んでいる。
俺が坂を降りる前に注意をしてたら……
だんだんと失われていく佳奈さんの体温を指で感じ取った俺は、たったそれだけのことで心が壊れそうだった。
そして自分の目がようやく閉じられる。それと同時にこの赤黒い神の世界は1度終わる。もう二度と来たくないけど、どうせ無理なんだろうなぁ。
この能力のようなものは、かつて俺の先祖がある神様との約束を破ったことで受けた罰であり、同時に祟りでもある、そんなものが代々受け継がれて来ているそうだ。
まぁ、神を怒らせて一族根絶やしにされなかっただけでもマシと言えようか。
今回モ、生キ残レルカナ?モシ救エナカッタラ、オマエガ死ヌダケダガナ!カハハハ!
この祟り神の言う通り、『死観』で未来を見た対象を助けられずに死んでしまった場合、俺も今まで助けてきた分だけ、それはそれは酷い死に方で死ぬらしい。まだ死んだことないから詳細なんて分からないけど。
でもあんなの見せられたら、助けないなんていう選択肢はないよな。
2次元並に可愛い美女と結婚するまでは絶対死なねーよ!この愉快犯が!
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俺の決意を合図に、目が急に開かれる。ここはもう現実だ。ミスは出来ない。というか、したらこっちが死ぬ。
「——よっか」
今この瞬間から約9秒後、佳奈さんは即死ルート突入だ。何とかしねぇと、とりあえず時間稼ぐか。
「佳奈さん!」
考えろ考えろ、どうすればいい。危ないって言っても聞かなそうだし、何個も試してる暇なんてない!
3秒経過
「なに?だからさん付け止めてってー」
5秒経過
俺の呼び掛けにも佳奈さんは振り返ってくれない。やばいやばいやばい!
7秒経過
そ、そうだ!いいこと思いついた!
「そ、その……!」
9秒……
俺のアホ!この際恥も捨てろ!とっとと言っちまえ!
「あの、怖いので手を握って一緒に降りてもらってもいいですか!?いや、降りてくださいぃ!」
その場でこっちを見て固まる佳奈さん。
「あは、あははは!!なにそれウケる!今更怖くなったの?それとも神崎って甘えん坊さんなのかなぁー?よちよち」
ふぅぅぅーーー!!!セーーーフ!!!
どうも。同い年の女の子によちよちといわれながら頭を撫でられる男、神崎優真です。佳奈さんが死にそうだったからだよ!って言ってやりたいけど、どうせ笑われるだけだからやめとこうか。
「んっ!手出しなさいよ」
良かった、これならどうにか助かるな。一安心だ。そう思って手を出すと、なんと恋人繋ぎをされてしまった。佳奈さん顔が赤いですよ?ていうか……俺の初恋人繋ぎが遂に売れたぁぁぁぁぁああ!!我が生涯に一片の悔いなし!
そうして2人とも無言で坂を降りきった。
「ねぇ、実は私……」
そしてもう1度時は止まる。
イヤー、スバラシイ、オメデトウ。ト、イウコトデ。キオクヲ「バラケ」サセテモラウゾ。モチロン「シュウゼン」ハスルガナ。
あぁ、やれよ。このクソッタレ。
この祟り神は信仰心の代わりに、運命を変えたことで新たに発生した、嘘偽りない濃い記憶を喰らうことで自分の存在を保っているそうだ。もうちょい他に食べるものないのか?
デハ、マタソノトキガキタラ。
もう出来れば二度と逢いたくないな。
バタッ、気が付くと佳奈さんは倒れていた。
とりあえず近くの先生を呼んでこようとした時、同じグループの一ノ瀬達が先生を連れてきた。
「かぁぁぁーーーなぁぁぁ!!!」
名前を叫びながら走って来るなよ、うるさい奴だな。
そして、一ノ瀬が佳奈さんの横にいた俺を突き飛ばして声をかけ始めた。
「おい、大丈夫か!佳奈!返事しろよ!」
「う、うぅ。じ、潤?無事で良かった……」
その後は、どうやら佳奈さんは捻挫した時と同時のタイミングで、額を地面に打ったことで、軽い脳震盪を起こし、ここ1時間程度の記憶が無くなっているとのこと。そしてこのちょっとした事件で肝試しは中止となり、みんなは浮かれた気持ちを部屋に持ち帰ることとなった。
俺達の班は軽い取り調べ(事後処理に必要なんだろう)を行い、俺はおかしな答えにならないように質問に答え、その後部屋に戻った。
あーあ、迷子になった俺と佳奈さんを一ノ瀬達3人が探し回っていたってことになってて、佳奈さんは記憶がない。これは俺なんもやってないことになってるわ。しかも、恋人繋ぎ童貞卒業の思い出も自分だけしか覚えてないとか世知辛い。
まぁ、報われないけど命を救ったことに変わりはない。この一つの事実を噛み締めながら俺はなんとか眠りについた。
その時の俺は、この悪夢のように残酷な「能力」を、これから何度も発動させる羽目になることなんてことは知らなかった。というか知りたくもない。
もう既に精神的にヤバいんだが?
愛月あかりの短い肝試し
先生ジェイソン(体育の先生)登場
女生徒 「キャーー!!」
男生徒 「うわぁーー!!」
愛月 「ぎゃぁぁぁぁああ!!バタッ」
先生ジェイソン「うぉぉぉお!!……愛月?大丈夫か!?あいつきぃぃぃい!!」
愛月は怖いものが嫌いなので、肝試し開始から10分足らずで失神していた。
※最近、愛月あかりが出番少な過ぎですが、これからは毎回登場しますのでご安心ください。