青い単眼
森の奥に小さな丘があることは誰でも知っている。
ただし、その丘は決して自然にできた形をしていなかった。
たとえるなら、人のまぶたのような・・・
少女は、花を摘みに森へ入った。春だというのに咲いている花は少ない。今年の春は寒いからまだつぼみなのねと思いながら、森の奥へ奥へと入っていった。
少女は丘までやってきた。不思議なことに、丘には一本たりとも花は咲いていないのに、丘の周りには、花が咲き乱れていた。
青く美しい花が、丘の周辺に広がっていた。
少女はしばらく見とれていたが、森へ来た目的を思い出し、花を一本摘み取ろうとした。
「痛い!誰だ、私の花を抜こうとする奴は!」
突然、森に大きな声が鳴り響いた。
少女は驚いて手を放す。
あたりを見回すと、丘が振動していた。そして、ゆっくりと丘だったものが姿を変えた。
丘は目で、覆っていた植物はまぶただったのだ。
瞳の色は青。真っ青な空を映しとったように澄んでいた。
『目』はぎょろりと少女を見つめた。
「私は地球だ。そして、これは私の目だ。昔は二つあったのだが、酸の雨や紫外線にやられてしまって、一つしか残らなかった。これらの花は私の目玉を守るために咲いている。お前はこの花がほしいのか?」
少女はうなずいた。
「私は青い花がほしいの。お母さんが死んじゃって、お母さんが好きだった青い色の花で、お母さんを包んで送っていきたいの」
目玉はまぶたを閉じて、また開けた。
「ならば、条件をつけよう。私は海を見たことがない。鳥たちによると、海は空と同じ青だが、違う青だと言うのだ。私にいつか、海を見せると約束するなら、ここにある花は好きなだけ持って行ってよい」
少女は両手いっぱいに青い花をかかえて、帰っていった。
十数年後、『青い写真家』と呼ばれる女性はインタビューでこう答えていた。
「私は美しく青い海を『彼』に見せたかったのです。しかし、『彼』はあれ以来、現れません。私は約束を果たすために、美しく青い海を取り戻し、いつか『彼』がまた現れた時、『彼』が海を見ることができるように、永遠に海を残すことにしたのです」
丘は沈黙し、かつて少女だった女性は海を撮り続ける。
インタビュアーが、『青い写真家には意中の男性あり」と報道したことは、間違いであった。
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