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ep.1「Encounter」 2




「はぁああ〜…」


思わずため息が出てしまう。いや、出るってもんだ。


結局テストは散々な結果に終わってしまった。まだ採点はされてないが、あの手応えでは確実に赤点確実だろう。

テストは今日で終わりではない。まだいくつもの科目が残っている。今日のことを思えば、いっそうため息が大きくなるのと同時になぜ家庭学習をしてこなかったのだろうと後悔する気持ちも大きくなる。

ここからどう挽回するか。とりあえず一夜漬けの日々が続くだろう。帰り道に栄養ドリンクでも買って帰ろうと女子高生らしからぬ思想を抱いて帰路についた。




数日後。期末考査を終わらせ既にいくつかの教科が何枚か採点されて返ってきた頃だ。

今日のお弁当の中身はなにかな、と休み時間に考えていたら私の元へある女子が近づいてきた。


「ねー、むっちゃん」

「その声は…」


外の風景を見ながらでも言い当てられる。


「志乃?」

「あったりー」


にへら、と私に笑いかけてくる女子、成宮志乃がそこにいた。


彼女は私の心許せる数少ない友達で、よく接してくれる。

可愛い顔立ちと優しそうな瞳を向けられる度に幸せな気分になれる。性格も私が今まで会ってきた人たちの中で一番汚れ無い優しい性格だった。


「また外見てたねぇ。なにかあるの?」

「風に当たってただけだよ」


ふうん、と志乃ちゃんも外側に緩やかに跳ねたショートヘアを風になびかせて隣に座った。


「ねえ、むっちゃん」

「なに?」

「面白い話聞いたんだけど興味ある?」


顔を覗き込むように聞いてきた。その仕種がたまらなくかわいくて思わず抱き締めてちゅーしてやりたくなる…

いや、私にはそんな趣味はない。無意識に同性まで惹かれさせる彼女はそれほどに可愛いということだ。


「聞いてる?」


私がそんな危ない葛藤をしていると知る由もなく尋ねてくる。


「ああ…興味あるよ」

「なんか無さそうだけど」

「あるある」


それじゃあ、と志乃ちゃんは『面白い話』をし始める…

と思ったのだが、


「じゃあ放課後、ニコ屋で話そう」


ニコ屋とは学校の近くにある喫茶店だ。

学校では言えないような話なのだろうか?


「ううん、そんなスゴいことじゃないんだけど」

「じゃあ何で?」

「なんとなく、長くなりそうだからさあ…」


歯切れが悪い。まあとりあえずこの場は同意して放課後に改めて聞くことにした。




テスト疲れのせいか時間が流れるのが早く感じる。おかげであっという間に下校時間となった。

ホームルームを終えて掃除場所に向かう。今週、私たちの班は木工室を掃除することになっている。

私はそのまま木工室を目指した。


教室に入ってみると見て分かるほどの床と机に散らばる木屑と粉が待ち構えていた。

こんなものさっさと終わらせてしまおう。箒を手にしてぱぱっと作業を始めた。

後から同じ班の女子たちもやってきた。


「男子はー?」

「もう帰ったんじゃない?」


私が教えると、えー、とかサイテー、とかいろんな罵声が飛んできた。


「木工室は大変だから男子もいなきゃ早く終わらないってのにさあ」

「まあまあ。やっちゃおうよ」


あんたたちだってついさっき来たばっかじゃない。と内心毒づいて再び清掃活動に入った。


女子たちは集まったはいいものの、雑談ばっかで動こうとしない。

口を動かす前に箒を動かしなよ、と注意したくなるところをグッと我慢する。どうせ言っても素直に従うような人たちではないのだ。


「そーいえばさ、今度転校生来るらしいよ」

「へー」

「なんでもイケメンらしいんだぁ」

「マジで!ちょっと期待しちゃうなぁ」


どうでもいい話が嫌でも耳に入ってくる。

ミュージックプレイヤーでも持ってくればよかったな…しかし残念ながら今日は私の部屋の机の上に置いてきてしまった。


「つーかどっからそんな事聞いたんだよ」

「職員室。先生話してるとこ聞いちゃって」

「そんでそんで?」

「んーと、転入試験を満点で合格!とか」

「頭良いんだぁ」

「スポーツも万能らしいよ。まさに優等生だ!って加藤が言ってた」

「なにそれ。最高じゃない…」


終わりの見えない井戸端にイライラしつつ、反してようやく掃除に終わりが見えてきた。


「もうこれで終わりっ」

「あっ、むっちゃんありがとう」

「ごめんねー。むっちゃんばっかり働かせて」


さもすまなそうに謝ってくる。こいつらを全員この場ではっ倒したい衝動に駆られるが、


「いいよいいよ、もう帰ろー」


とにかく急いでこの場から離れたかった。

というよりはこいつ等から離れたかった。


下品な人間、私が最も嫌うもの。

嫌いなものたちと好き好んで長時間いるつもりはサラサラ無い。


ばいばい、と適当に手を降ってその場から早足に離れた。表記するには躊躇われるような悪態をつきながら。

家に帰ってシャワー浴びてアイスでも食べよう。ストレス解消にはそれがいい。




「遅いっ」

「申し訳ありません…」


すっかり志乃ちゃんとの約束を忘れていた。しかし昇降口で待っててくれたおかげですれ違うことなく会うことができた。

志乃ちゃんは毎回頬をぷくっと膨らまして怒る。やる人が選ばれる高等技術だけど、この子の場合は違和感がない。寧ろ可愛さ三割増しだ。


「ちょっと!なにニヤニヤしてるのっ」

「はっ」

「はっ、じゃないよ。顔緩みまくり」


目を細めてクックッと喉を鳴らすように笑う。独特の笑い方がまた可愛い。


「じゃあニコ屋行こう」

「ごめんね、遅れて」

「いいよ。もう気にしてないから」


あっけらかんとした感じで言う。容姿より、何より彼女のこういう性格がたまらなく心地いい。

志乃ちゃんが男子から好かれる理由がよくわかる。昨今の女子高生には欠如してる爽やかさを持っている。


うんうんと頷く私を、早くーと数歩先の彼女が呼びかけた。

今日のストレスはもう解消されたと言っていいかもしれないな。

でも面白い話っていったいなんなんだろ?


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