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ep.1「Encounter」 1




今日から高校三年になって最初の期末考査が始まる。


受験生となってしまった身、嫌でも必ず結果を残さなくてはならない。どうしても受験に響くからだ。

世界史のテストから始まる全二日のスケジュール。気を引き絞めて乗り越えなくては。




完全に手が止まった。


(山が外れた…)


昨日徹夜して張った山は目の前のテストによって呆気なく崩壊した。まあ一日でテストができるわけないんだろうけど…全部分からないってのはどうなんだろう。


時計を確認する。開始からまだ十分しか足ってない。

見切りをつければそれまでだけど、今後のことを考えればそう易々とテストを投げ出す気になれない。

助けを求めるように外へ目を向ける。私の葛藤なんか知らずにピーチクパーチク騒ぐ鳥が見えた。


はあ。なんて清々しい青空なの。

私の悩みなんかきっとこの偉大な地球と比べたら塵芥なんだわ…

…なんて、そんな自分のちっぽけさをわざわざ再確認する必要ない。

なんだか追い込まれた状況に身を置かされると余計なことを考えてしまう。

騒がしい鳥のこと、僕らの宇宙船地球号のこと、そして、こないだ友達と話したこと。なんだったっけ?

数秒、思考を停止させて記憶の糸をたぐってみる。その記憶を見つけるのに時間はかからなかった。




そうだ。休み時間中に友達と話した、「学のない女はモテない」というどうでもいいこと。

鼻息を膨らまして単語帳をパラパラめくってたクラスの女子の顔が鮮明に蘇る。


「もう今は『少し抜けてて天然な子』ってのはウケ良くないらしいの」

「へえー。それでそんな必死に単語練習してんだ」


文法がままならないのにどうすんだ、という野暮なツッコミは入れない。


「あんた前のテスト赤点だったじゃん」


私の思慮も気にせず、横から他の女子が茶化す。


「るっさいな、今から挽回すんだよ」

「どうだか」


そんな一コマ、回想終了。




私はこのテの話が苦手だ。

恋愛に苦手、だからだと思う。というかまるで興味ない。

だから女子たちがイケメンと呼ばれる男たちにきゃあきゃあと黄色い声をあげる意味が理解できなかった。それにあの声は不愉快だし、聞きたくない。

なのに、なぜか毎日あの輪の中にいる。


変わってるとよく言われる。自分ではどこがどう変わってるのか自覚できない。

回りが言うには、「マイペースすぎる」とか「嗜好が偏ってる」とかほっといてほしいことばかり。

協調性がないとも言われる。我を通す人間だから自分以外の人間には異質に見えるのだろう。

私は空気を読むとか、回りに合わせるとか、なんとなくその場かぎりの自分を作り出すのが苦手だった。というより、意図的にしなかった。

個性と呼べる個性がない。そんな人たちと一緒の立場に立ちたくない。だから私は私を貫く。

かっこいいこと言ってるけど、実際は煙たがれることもあるし、ハブにされたこともあった。昔の話だ。今はもうクラスメイト全員が理解してくれている。


恋愛に興味がなかったり、他人に興味がなかったり、じゃあ私は何でここにいるんだろうと誰に問いかけても答えの出ない問いを頭の中でぐるぐる巡らせてみる。


私は何を目的として日々を過ごしているのだろう。


そんな葛藤が、悩みが、日に日に巨大化していくのがわかる。このまま抱え込んでいたら私はどうなるんだろう。

自分の意思を持ってるくせに周りに流されてる。私はいつだって孤独だ。




ふと視線を上げる。時計は残り十分を告げた。

答案用紙はまだ半分も埋まっていない。当たるか当たらないかは別だ。とりあえず書かなくては。下手な鉄砲数打ちゃ当たる、と言うしね。

自分がどう生きたいかなんて後々決めればいい。今はテストに集中しなくちゃ。

鳥の声が聞こえなくなってることにすら気付かずに、私は行き当たりばったりにペンを走らせ始めた。






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