表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/50

43 Engage!


空を見上げる。光の屈折で青い、空。

それは僕らを閉じ込めるドーム。大半が窒素、それから二酸化炭素に酸素。


気体に包まれ、圧力をかけられ、自由を奪われ、



しかし、そこでしか生きることを許されない、有機生命体。


なんてつまらない存在だろう。


君に束縛されているのじゃあ、ない。ドームと重力に囚われているだけなんだ。

だから何も気にしなくていい。いつもどおりでいいんだ。


多分、おそらくだけど。君は青いドームの中、重力の井戸の底で有限でありながら無限である、この丸い世界を歩き続けているのが一番美しい。

どんな困難に出遭おうとも、いかなる障害にぶつかっても、君なら乗り越えていけるだろうね。

僕は君を見つめていられたことを光栄に思う。


君に触れて、世界を知って、途中までだけど同じ道を歩けて幸せだったと思う。


ずっと同じ道だったらよかったんだけれど、そううまくはいかないものだね。



僕はもう6年も履き続けたスニーカーにさよならを言う。しっかり汚れ、くたびれてしまったヨレヨレスニーカー。。

これも捨てていかなきゃだね。

多分、おそらくだけど。もうこれを履く機会なんてないから。

君にもらった大切なスニーカーだったけど。


本当はさ、私物は一つも持って行っちゃあ、いけないんだ。

だけど僕はナイショで一つだけ持って行くことにした。


君との思い出。


空が青から紺に近づくとき、僕は旅立つ。

僕らを閉じ込めているこのドームから飛び出すんだ。

特別製のエンジンで。


ナイショにしていてごめん。ずっと前から決まっていたことだったんだ。

わかってたことなんだ。言えなくてごめんね。



本当の故郷は


多分、おそらくだけど。この高い空、ドームの屋根の向こうにきっとある。


近いうちに君は母親になる。そのこどもが大人になって、またこどもができて、大きくなって、

その頃には君にも見えているといいな。また、会えるといいな。


煤けたドームから解き放たれて、自由になれるその場所で。



さて、そろそろ準備にかからなきゃ。この靴を脱いで。

水のつまった服を脱いで。

銀色の、見えない羽根の生えたスーツに着替えて。



ねえ君。気づいてたろうけど僕は君が大好きだったよ。

狭苦しいこの世界で、それだけは真実だったな。

さあてと、さよならだ。



深呼吸をしよう。

微粒子となって彷徨っている君との思い出を、このカラダに吸い込んで

僕は旅立つ。


特別製のエンジンで。


そう、特別製のエンジンで。



あと7話! あしたもよろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ