失楽園
ここは緑のユートピア。
ここは赤のユートピア。
反対色が交わって、やがて黒色へ向かう入り口。
さあ、中のほうまで手を伸ばして、ほうら、ずっと奥まで。ほら。漆黒の、闇色をした玉璽を貴方の手の裡に収めて。
紺色の空に輝く小さな点はやがて濁り、消えてゆく。大きすぎた宇宙は、光満ちた時を過ぎ、静寂へ、沈黙へ、時間さえ意味成さぬ世界へ向かう。
さあ、アタシの中にいらっしゃい。ずっと奥まで。そこより奥の方まで。
そして堕ちゆくといいわ。欲望とともに進みましょう、なにも、見えない暗闇の中まで。
導いてあげてよ、その先まで。
ここはどんな楽園かしら?
ユートピアとは何かしら。
アタシの中のヒ・ミ・ツ・ノ・バ・ショ。
貴方の熱に呼応した、真っ赤に燃える炎で包んであげる。
アタシの熱に怯えるといいわ。
やがて熱と光に満ちた時を過ぎ、沈黙と時間を失った世界にたどり着いてしまうがいい。
貴方の永遠の絶望さえ消滅し、欲望の澱が塵と化す。
所詮はその程度。
どんなに大きくともソレは貴方の小さく浅薄な勘違い。ネェ、手を伸ばして確かめてご覧なさい。おそれないで。
奥まで、ずっと奥まで入ってその躰で感じなさいな。
アタシの玉璽を手にした時、貴方の意識は飛んでしまうでしょうね、永遠に。
世界が終わっても決して戻ることはなくってよ。
それが真なるユートピア。
真っ赤な色に縁取られた、唇が語る楽園。濡れた舌が語る失楽園。
苦しみと欲望と歓びは皆同じ。一度に与えてあげましょう。
緑と赤でくすんだ、透き通ったこのカラダにお入んなさい。手を伸ばしてほら。
アタシに触れてご覧。すこし湿った柔らかな膚に。貴方が欲して止まなかったソレに。
潤ったその道をくぐって、いざゆかん時の果て。
黒く湿った長い髪でアナタを縛ってあげましょう。
もっと奥まで来れるように導いてあげましょう。この吐息で。
濡れた唇で、嘲笑って。愚かな貴方を高らかに蔑んであげるわ。
失楽園に足を踏み入れた罰を貴方に。
第50話まで、もう少しお付き合い下さい。




