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34 罪人

わたしの愛した人は罪深い。


いくつか年下の、学生服が似合う男の子だ。いいえ、もう青年……かしら。

恋愛や特別な感情は持たないように、あれほど「教育」されていたのに何故かしら。わたしは彼に惹かれてしまった。


罪深いというのなら、わたし達皆同じ。人道に背いていると避難されても当然。でも角度を変えればやむを得ない、むしろ正しいと判断する者もあるに違いないわ。

だってこれは、人の、人類の存続のために犯している罪。


ただある能力に秀でているというだけで、攫われ、訓練され、実戦投入されている、簡単にいえばそういうこと。

スタートは悲惨でも、今となっては自分たちの意志ので行動を起こしているのだから後悔はないわ。正しいと信じている。心から。

この手が血にまみれたものであっても。


オーバーテクノロジーを扱えるのは人類であって人ではないもの。多分そう。

このテクノロジーが誰によって開発され、実用化されているかなんて知らない。わたし達には関係のないことだもの。


わたしや彼、仲間と呼べるみんなはそう考えてる。

自分の成すべきことをするだけ。

人智を超えた能力を使いこなしていくだけ。

明日にはこの世にいないかもしれないけれど、それでも使命は果たしてゆくわ。


彼はまだ若すぎるくらい若い。顔に幼さが、純粋さが色濃く残っている。

きっと、こんなとこにいるべき子ではなかった可哀想な子。


「何をしてるの?」

「宿題」

宿題なんてそんな言葉初めて耳にした。意味は知っているけれど。就学年齢に達す前に組織入りをした。ホームワークなんてお気楽なものものを課せられたことがなかったわ。

「数学の担任がさ、俺を目の敵にしてるっていうか。これって多分高校生レベルじゃないだろうなあというのを出してくるんだよね」

彼が見せた紙片はとても簡単な線形数学の問題。この国の子どもは、こんな程度もできないってことかしら?

「もう一つ。これ。笑っちゃうだろ?」

あら。とわたしも微笑む。フェルマーだわ。証明されて久しい、今更の定理。

「めんどくさいからフランス語で答えておくよ。数学教師だったらその程度の読解力があってもいいだろうしね。できなきゃバカってもんだ。」

日本の教師がどの程度のものなのかわからないが、彼が鬱陶しく思うくらいなのでしょうね。



「ねぇ、俺、学校やめてもいいかな。行くだけ無駄だと思うんだ」

お手本のような証明を、美しいアルファベットで書き終え、ペンを置くと、彼は振り返ってわたしを仰ぎ見た。

「あなたはそう思わないか」

「……学生時代って大事だから行っておいたほうが、というのが上の意見だけど」

「ここで学ぶ時間を増やしたほうが生存確率は上がるんじゃない」

わたしは苦笑する。

「伝えておきましょう」

扉を開けて出て行くわたしに小さく呟く彼の声が聞こえた

「その方があなたといられる時間も増えるしさ」



明日がわからないのは人類皆同じ条件。

同じ死ぬにしても、覚悟して望む場合、まったく知らずに終わりを迎えるのとは違うの。

わたしたちは1時間でも、1分でも無駄にはしたくはない。

生きている証なんてどこにも残せないし、あったとしたら徹底的に抹消される。

人類を超えた人類なんて、知らしめてはいけないから。

生きている証は、人類が生き残っていることこそだ。


「彼ら」が狙っているのはわたしたちそのもの。

オーバーテクノロジー。

都市一つを平気で破壊する「彼ら」と太刀打ちできるのは、わたしたちだけ。。



ベッドで彼のぬくもりを感じられるのは、あとどのくらいだろう。

わたしの心を盗んだ犯人は目の前で静かに寝息をたてている。彼に、わたしは捉えられたまま。


一度得てしまったテクノロジーを捨てる勇気など人にはなくって。

ならば戦おう。人類がもう少し進歩するまで。わたしたちでなくとも、これを扱うことができる日がくるまで。

「彼ら」に渡さぬよう、わたしたちは今日も戦う。命を懸けて。


愛する人と共に。


明日は戦闘機乗りのお話です(多分)。どうぞお楽しみに。

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