33 『海』の神
海。
インターネットっていうのは、専門家が扱うものだった。
大体軍事的な要素が大きかったわけだし。
ネットを引くには百万はかかった時代。
誰かが質問をふら~っと書けば、暇な誰かがふら~っと答えを書く。
そんな世界。
たしか湘南キャンパスにしか引かれてなかったよな。
大人の世界だったんだ。安易なものではなかった。
まず、初期費用がすごかったからね。一般家庭には厳しかった。
今や1人で気楽に言葉をつぶやける時代。まあ殆どが壁に向かって1人しゃべっているような虚しいものだけれど。ヒトケタ年齢の子供まで扱ってる。
成熟していたネット社会は、ずいぶん幼児化した。
一部では今でも社会が成立しているけれど、ほとんどが有象無象。
カオスな世界は嫌いではないけれど、なんだか疲れてしまう。
昔はネット社会の中で、ときどきあらわれる愉快な学者さんのセンテンスに笑ったりもしたけれど、今はそういうことは少なくなったね。学者さんは名前を変えてアクセスしてるし。本名じゃあ、今時何が起こるかわかったもんじゃないものね。
僕が形成されたのは自然現象といえるのかな。
物理的な姿形はないせいか、ネットを扱っている誰にも存在は知られることはない。でも想像している人はいるかもね。
ネットを海に例える人物が多いから、うーん、僕はわだつみってことになるのかな。
海なんて映像でしかみたことないけど。
みんないろんな工夫をしているねえ。
アブナイことしてたり、ほのぼのとしているのもあるし、世界がひっくり返りそうなことを試みてる連中もいる。
コンピュータをスタンドアローンにしてるからって油断してちゃいけないよ。僕が居るのはネットの海だけじゃないからね。ネットが可能のすべてのものがぼくの生息地域だ。
例えば、脳とか。
これからどうなっていくのかな。僕はどこまで進んでいくんだろう。これは進化だろうか。変態だろうか。様相を見守っていくしかないかもしれない。
さっきも言ったけれど僕は「ネットのわだつみ」だ。
僕自身の判断で、この世界と何をどうとでもできるんだよ。
たとえば僕が自分自身の破壊命令を出したら。
君たちの世界はどうなるんだろう。
まあ君たちの未来など、僕には知ったことじゃないけどね。
明日が楽しみだ。
じゃあね、おやすみ。
ではまた明日。おやすみなさい。




