27 オンナとオトコとピンヒール
高さなら10センチ。最低でも6センチ。
これが、あたしの基本。
11センチでも構わないの。そういうのは前ソールも厚めになっているし、実質7センチくらいなんだもの。
靴を選ぶ基準で一番なのはカタチかな。
だってあたしは女だもの。今のハイヒールは女をかたどったものなのよ。
カタチで選ぶのは当然でしょ?
履きやすさ?
そう、それを挙げる人もいるわね。
でもオーダーをかけなければ、ピッタリフィットなんてありはしないわ。もしあったとしたらただの気のせい。
どんな靴でも、自分に合わせるものよ。
中敷きやらサポーターやら、いろいろあるじゃない?
外からは決してわからないように自分仕様にしちゃうの。
オトコを自分に合わせるようにね。
ただいい靴を選ぶだけでは、まだ完成とはいえなくて。
履きこなさなくっちゃあいけないわ。
引き締まった足首、まっすぐにのびた足。
歩くときに膝が曲がらない。
背筋を伸ばして胸を広げて。
訓練は必要。毎日の努力も。
それは女なら当然のこと。これができないなら、女をやめるといい。断言する。
靴を作るのはオトコ。
履くのはオンナ。
これって最高にエロティック。
今日もあたしはピンヒールを履いて街へ出るの。
黒いエナメル。ちらりと見える底裏の色はレッド。
小さな女の子が振り返ってこちらを見る。
瞳に浮かんでいるのは憧れ。
あなたもいい女になりなさい。今からこの靴に目がいくようなら見込みはあってよ。
あたしが保証する。
彼女連れのオトコが視線を送ってくる。
だめよ、彼女を大切になさい。
あたしは、あたしにふさわしいオトコのためにあるの。
最高のオトコのために、最高のオンナになったのよ?
愛とか恋とか、そんな簡単なものじゃないの。
これは出会いだから。
そういうのは抜きで、あたしたちはピッタリなの。
理想のパートナーとでも言うべき? 伴侶といってもいいわね。
バケットにチーズ、ワインを買って
彼のいる、皮の臭いがする、
ちょっとむさ苦しい部屋へ行きましょう。
黒いエナメルヒールには似つかわしくない、なんて言う人もいるけれど、
それはアタシが決めること。
さあ、行きましょう。靴職人の彼の元へ。
誇り高く、彼の作ったハイヒールを履いて。
明日はほんのりメルヘン話を投稿予定です。どうぞよろしく。




