18 闇に響く足音
足音が聞こえる。
人の聴力の限界を超えたところで、高く低く響く。
わたしは体でそれを感じることができる。そして知る。
今夜もあの人がやってきたことを。
わたしの周囲はいつだって真っ暗。
永遠の闇の中で生きてきた。
狭い空間で、未来も過去も何も見えやしなかった。
『彼』が通り過ぎたのは偶然だ。
ほんの気まぐれからやってきた『彼』が、わたしのそばを通ったのは偶々だ。
そして興味を持ったのも。
わたしの闇を気に入ったのだろうか、『彼』は形をとることなく、一晩中こちらを見つめていた。
恐怖と興味で震えながら、わたしは視線を全身に感じていた。
未来も過去もなく、あるのは体中に刻まれた傷だけ。
壊れてしまった心だけ。
彼の手がわたしに触れた時、救われた気がした。心が解放された。
おそらく彼は悪魔だ。
人に忌み嫌われている、この世ならざるところからやってきたのに違いない。
しかしこの安楽はなんだろう。
夜の鳥が鳴き始めるとやってくる彼は、わたしに触れ、優しく抱きしめる。
言葉を交わすわけではない。
もっと高貴で高尚なる何かで意思を伝え合っている。宇宙の音楽で。
悪魔は人の悪意を司るもの。
悪を支配し、浄化させる唯一のもの。
善には関わることができぬかわりに、私の中の悪意を自在に操り、消すことのできるもの。
今、わたしの中に負たる感情はなにもない。
安寧の中にいる。
彼の腕の中で。
いつか彼とともにここから旅立つときがくるだろう。
その時わたしは何ものに變化しているだろう。
願わくば彼と同じ悪魔になりたい。
人の悪を司り、閉じ込め、永遠に無きものとできる力を持つ魔力を持つものに。
どうか、どうか。
明日もどうぞ、お楽しみに




