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その1 「僕の嫌いな故郷」

ちょっとした時間……電車で移動、待ち合わせまでの時間、カフェでのひとときや眠る前、ほんのすこしの時間があれば読める1話完結のお話です。あなたの心の隙間を埋める、小さな作品たち。お楽しみ下さい。

「僕の嫌いな故郷」



青い青い青い星。


真っ黒い深淵をまあるく切り抜き、青と白の絵の具をぽんぽん投げ入れて混ぜたような、恒星の光を美しく反射した星。


僕はぼんやりとその光景を思い遣った。ああ、そんなところがあったなあって。

人がたくさんいたな。

建物がたくさんあって。友達や同僚と言ってもいいような人もいっぱいいた。


だけどいつでも僕は一人ぼっちだったように思う。


どんなに笑っても、楽しくても、人は個人。「個」なんだなってね。


いい成績だったし、ちやほやもされた。

正直、モテた。

ルックスは中の上にすぎなかったけれど、成績やら名誉やらが上の上に持ちあげてくれた。錯覚をおこさせていたんだね。


周囲にこんなに人はいたけど、僕は一人ぼっちだったのかな。



青い青い青い星には億単位で人がいたってのに。

振り向けば誰かいたのに。


なんで孤独を感じるようになったんだろう。


物心ついたころに、もう。



無意識に手が動く。いくつかスイッチを入れたり切ったり。


億単位の人のことなんて今は考えたくない。


僕は一人だ。

たった一人だ。

ニセモノの孤独じゃない、本当の一人だ。


僕の知っていた友達や同僚、恋人、今どうしているだろう。

そんな空想をしてみた。

答えはわかっているのにね。虚しいばかりなのに、もしあのままだったらと考えてしまうんだ。あとで悲しくなるばかりなのに。

空想の中のみんなは、笑顔で僕をみている。


ああそうだ。

ここにいるべき人は僕で在るべきではなかったんだ。


何故か愛されて、何故か信頼されてた僕ではなく、もっとふさわしい人がいたはずなんだ。



……いや、やはり僕で正解だったのかもしれない。


一人ぼっちの長い時を過ごしてきた僕への罰として。



「一人ぼっちだと思い込んでいた僕」への。



ごめん。ごめん。みんな。

僕ならなんとかできると信じてくれていたみんな、ごめん。


これが自分の精一杯なんだ。


頬が熱い。そうか、涙が伝っているんだ。


その温かさに、人の心を感じた。この涙の温度が人なんだね。

もっと早くに知っていたかったな。



足をそっと動かしてみる。ゴワゴワと厚みあるズボンは何の音も立てずに、ただ動きを緩慢にする。

腕もそうだ。手袋が邪魔だが外すわけにもいかず。



あの青い青い青い星は今頃どうなっているんだろう。

4本の手と、2本の足、10センチはある金色の眼球を持った一つ目の「人類」が、幸せを享受しているんだろうか。


僕の知っている人類を駆逐して。



僕らが最後にできたこと。過去にあの星を出奔して、別星系で生活を営んでいるはずの「ポスト・ヒューマン」に「人類」を届けること。


たった一人分でいい。青い青い青い星に住まわっていた「人類」の遺伝子を届けること。



金色一つ目に発見されることのないよう、極秘裏に。



この太陽系に姿を現さなくなって久しい「ポスト・ヒューマン」だが、それでも発祥の地へは(長いスパンで見れば)度々訪れているらしい。

その際、宇宙服に身を包んで漂っている僕を運良く見つけてもらえればそれでいい。


どれほど確率が低くても。それが僕らの願いなのだから。



僕自身に埋め込まれたメモリー、それは「人類」に残された最後の希望なんだ。



ああ、どこかで笛の音が聞こえる。

やさしい音だな。


一人ぼっちだと思い込んで生きていた、故郷。

大嫌いだった故郷。



今はとてもとても恋しい。



もう一度、青空の下、木々の中を歩いてみたい。


みんなと。



みんなと。



そして「ありがとう」と言いたい。



それが叶うならどんなことでもするのに。



僕の体は長く長く宇宙をさまよう。

青い青い青い星はまだ小さく見えるだろう。

でももう、僕の知っている故郷ではないんだ。


だから僕は振り返ることもなく、生命維持装置を切った。


この体をできるだけ損傷なく保つために必要なことだから。




ごめん。ありがとう。 そして




  おやすみ、みんな。




       

こちらの短編集は「即興小説トレーニング」で書いたものを加筆修正したものです。

お話を書かれる方は、こちらと元の文章を比べて「うふふふ」となってみてください。そのままのもの、まるで変わっているもの、いろいろあります。

ツイッターはkhronos442 佐藤健志 よろしくおねがいします。

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