兄弟
八、兄弟
迷子センターに勝がやって来ると、部屋の片隅で駿介が寂しそうにポツンと一人で座っているのがわかった。
「駿介!」
勝が駿介に声を掛ける。駿介はその声を聞き、勝の方を見ると、椅子から飛び上がり勝の方へと駆けて行った。
「お兄ちゃん!」
駿介は勝に抱きついた。よく見ると、目をはらして泣いていたのが分かる。
「兄ちゃん心配したんだぞ。勝手にいなくなったりしたらダメじゃないか!」
勝が駿介を強く嗜める。駿介は目を真っ赤にしたまま、「ごめんさない」を繰り返し、泣きじゃくっていた。
そんな駿介を見て、勝は改めて自分は駿介の兄であり、駿介は自分の弟だということを思い知らされた。例え本当の兄弟ではなくても、駿介は自分の弟なんだ。守ってやらなくてはいけないんだ。そう強く思うのであった。
そして駿介を強く抱きしめると、勝は言った。
「もう絶対に離さないからな」
それは勝の決意でもあり、本心でもあった。
二人は迷子センターの職員に礼を言うと、そのまま帰路についた。駿介の目はまだ赤く腫れぼったかったが、いつもの元気な姿に戻っていた。そして、勝の手をギュッと握り締め、離そうとはしなかった。そんな駿介を、勝は愛おしく感じていた。
その日の夜、昼間の事で余程疲れたのだろう。隣では駿介がスヤスヤと寝息を立てて眠っている。そんな駿介を見て、勝は一つ心に決めたことがあった。
もし仮に、一郎伯父さんに引き取られたとしても、駿介は守るべき大切な弟であることに変わりがない、ということだ。自分と駿介の絆。それはたった十年にも満たないものではあるが、何人たりとも壊すことが出来ない絆でもあった。
その事を確信できただけでも、勝にとって今日の外出は有意義なものであった。




