詰問
二、詰問
次の日もその次の日も、勝は悶々とした日々を過ごした。学校の授業も上の空で、頭には全く入らなかった。いつもなら真っ先に遊びに行く放課後も、外に遊びに行くわけでもなく、家の中で只々ボーっとする日々だった。
父母は勝の元気のなさに、少し心配をしていたようだが、それでもいつものように特段の変化もなく接してくれていた。しかし、父母の態度に多少のぎこちなさがあるのは、子供ながらに勝にも気付いていた。
「あの話はやっぱり本当なのか」
勝はやり場のない苦しみを、胸の内に抱えていた。そんな中、弟の駿介だけは、依然と全く変わっていない。お兄ちゃんに構って欲しくて、勝の近くから離れようとしなかった。
それから数日が過ぎた、ある日の日曜日。勝は意を決し、真相を両親に問い質すことにした。幸い、弟の駿介は近所の友達の家に遊びに行っており留守だった。父母は二人揃ってリビングでテレビを見ていた。絶好のチャンスだった。
勝は父のもとにゆっくりと近づいた。いつもの勝とは違う雰囲気を感じ取ったのであろうか、父は勝が近づくと、少し不思議そうな面持ちで勝に尋ねた。
「勝、どうかしたのか?」
父はソファに腰かけたまま、勝を見上げ問いかけた。勝は父の問いかけにも答えず、ゆっくりと父の前まで歩いて行くと、その場で正座をし、父に対峙した。
その様子を横で見ていた母も、いつもと様子が違う勝を見て、心配そうに声を掛けた。
「勝、どうかしたの?正座なんかして」
勝は正座したままゆっくりと息を吐くと、単刀直入に話を切り出した。
「僕は、父ちゃんと母ちゃんの本当の子供じゃないの?」
その言葉を聞いた父母は、二人とも驚きの表情を隠せなかった。二人は思わずお互いの顔を見合わせた。勝が続けた。
「父ちゃんと母ちゃんが、この前の夜ここで話しているのを聞いちゃったんだ。僕が一郎伯父さんの子供だってこと」
「そんなこと…」父が振り絞るような声で呟いた。しかし最後の方は声にならなかった。母は困惑した表情で勝を見つめている。
「僕、本当のことが知りたいんだ。僕は誰の子供なの?」
勝ははっきりとした口調で、父に問いかけた。本当の所は、父の口からあの話は冗談だよ、と言ってほしかった。笑い飛ばしてほしかった。しかし、目の前にある困惑した父母の表情が、この話が冗談ではないことを物語っていた。
しばしの沈黙が三人を包んだ。勝は真っ直ぐに父を見つめている。すると父が徐に話し始めた。
「この話はもう少し先にしようと思っていたのだが…。しかたがない。お前ももう六年生だ。本当の事を話してもいい年だろう」
父がゆっくりと瞼を閉じた。
「あなた…」
母が不安そうに父を見つめる。勝は父から目をそらない。
「あれはそう、お前が生まれてる少し前のことだ」
父が真実を語り始めた。