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気迷

十五、気迷

 その頃、古石家では、妹夫婦が勝の帰りを今か今かと待ちわびていた。勝は必ず私たちを選ぶ。選んでくれるはず。二人にはそう確信があった。しかし、人一倍優しい勝は、もしかしたら一郎に同情をして、一郎のもとに行くと言い出すかもしれない。そんなほんの少しだけの不安を抱えながら、勝の帰りを待っていた。

 何も事情を知らない弟の駿介だけが、いつもと変わらず、テレビに夢中になっている。妹夫婦は何をするわけでもない、長い一日を過ごしていた。


 一郎は一度深呼吸をすると、勝の目を見つめながら言った。

 「これが俺の今の気持ちだ。無茶なことを言っているのは初めから承知しているよ。でも、やっぱりお前と暮らしたいんだ」


 勝は、正直少し迷っていた。ここに来て話を聞くまでは、一郎の気持ちを聞いたうえで、やっぱり断ろうと思っていた。しかし、一郎の本心や過去の経緯を聞いた今、一郎に対して今まで以上に情が移ってしまった。妹夫婦が心配しているように、優しい勝は一郎に同情してしまったのだ。勝は悩んだ。


 そんな勝を察したのか、一郎は勝を気遣うように言った。

 「答えを出すのはゆっくり考えてからでいいよ。これはお前にとって重大なことだからね。じっくり考えて決めて欲しい。もちろん、俺を選んでくれたら嬉しいけど、妹たちを選んでも俺は今まで通り変わらないから」


 勝は困惑の色を浮かべながら、小さな声で呟いた。

 「わかった」


 勝は一郎の家を辞去した。家に帰るまでの電車の中で、勝は一郎の話を反芻していた。初めて聞いた、一郎と自分の過去。信じられないことも多くあったが、全ては本当なんだ、と自分に言い聞かせた。優しい一郎伯父さんが、本当のお父さん。今でも勝は信じられなかった。


 家に帰ると、父と母が玄関先まで飛び出してきた。余程帰りを待っていたのが、勝にもわかった。


 「ただいま」

 勝が普段と変わらないように言った。


 「おかえり」

 母が優しく声を掛ける。するとすぐに駿介が飛び出してきた。

 「お兄ちゃん、カードゲームでバトルしようよ」

 駿介が勝の服の袖を引っ張って、勝を急き立てる。勝は弟に引っ張られるまま、奥へと消えていった。父母は今日の事を聞きたかったが、勝に無理に問い質すのはやめようと決めていた。勝から自然と話してくれるまで待とう。そう心に決めていた。


 勝にとっても妹夫婦にとっても、長い一日が終わろうとしていた。

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