回帰
十四、回帰
一郎は、涼子と暮らしている間は、勝のことはそんなに気にならなかった。勝は古石家の長男としてすくすくと成長していたし、一郎にも涼子という家族が傍にいたからだ。
それでも、一郎は半年に一度くらいは妹夫婦のもとを訪れていた。勝の成長していく姿を見たいのが本音だった。腕白坊主の勝は、いつも弟の駿介を従えて、元気に遊んでいた。一郎が訪ねると、遊園地に行こうとか水族館へ行こうと言って、決まって一郎を外へ連れ出していた。
今思えば、一郎が妹夫婦のもとを訪れる際は、決まって一人であった。涼子は何かと理由をつけて一緒に来ようとはしなかったのである。口には出さなかったが、やはり勝とどう対峙してよいか、涼子自身わからなかったのかもしれない。もしくは、単に子供が好きではなかっただけなのかもしれない。今となっては、理由は闇の中だ。
涼子と別れた後、一郎は再び独り身の寂しさを痛感していた。暖かい家族の温もり。一郎はそれを欲していた。
それ故、一郎は自然と妹夫婦のもとに足が向いた。涼子と別れてからは、月に一度は必ず訪れるようになっていた。妹夫婦は一郎をいつも歓迎してくれた。もちろん、勝も弟の駿介もだ。一郎は古石家の中に求めている家族愛を見つけていた。
「やはりそれでも、この年になると自分の家族というのが欲しくなったんだ。特に刈谷家の跡取りというのがね。妹の所は勝も駿介もいる。でも俺には誰もいない。何か不公平さを感じていたんだな。勝手な言い草だけどね。でも、勝や駿介と会っているうちに、その思いが強くなってきたんだ」
一郎は初め、養子縁組をあっせんしてくれるNPOを頼ってみた。様々な理由で親元にいられなくなった子供たちを紹介してくれる団体だ。しかし、審査は大変厳しく一郎は候補にすらなれなかった。
その理由は、まず結婚していないこと、離婚をしていること、そして決定的だったのが、過去に実子を養子に出していることだった。経済的には充分でも、過去の経緯から養子縁組には不適格と判断されてしまった。
また、一郎はお見合いパーティーにも積極的に参加した。新しく巡り合った女性と、新しい家庭を築きたい。そして子度とも仲良く暮らしたい。そんな思いもあった。
しかし、なかなか良縁はなかった。特に相手の女性が気にしていたのは、勝の事であった。実の子を経済的理由で養子に出す、ということに理解を示してくれる女性がいなかったのである。一郎は落胆してしまった。
そこで思ったのが、勝をもう一度引き取って育てるということだった。身勝手なのは重々承知している。非難を浴びても仕方ないことだと思う。それでも一郎は、家族が、そして跡取りが欲しかったのである。
「それでこの間、妹夫婦に申し入れをしたんだ。勝を引き取りたいとね。当然ながら非難轟轟の門前払いさ。何をいまさら、という感じだった。でも俺は諦めきれなくてね」
一郎が言葉を吐き出すように言った。
勝は只々、一郎の話をじっと聞いているだけだった。




