確別
十三、確別
しかたなく、一郎は妹夫婦の家へ戻った。もしかしたら先に家に戻っているかもしれないと、一抹の望みがあったからだ。しかし、勝は戻っていなかった。
一郎は事の顛末を妹夫婦に話すと、妹夫婦は大きく動揺した。こんなに長い時間、勝がいなくなるのは初めてだったからだ。
勝は好奇心旺盛なので、ちょっと目を離すとすぐにいなくなってしまうことが度々あった。それでもすぐに元の場所に戻ってくるのだ。そういう意味では割としっかした子供であった。その勝が長い時間帰って来ない。妹夫婦は焦りを感じていた。
警察に電話しようか?そんな雰囲気になっていた頃、玄関のチャイムが鳴った。
「こんばんは、警察のものですが」
妹夫婦が慌てて玄関の方へと走り出す。一郎もそれに続いて走り出した。
玄関を開けると、制服を着た警察官とその横に泣きじゃくった目をした勝の姿があった。
警官が言った。
「どうやら遊びに夢中になって迷子になってしまったようですね。泣きながら歩いているのを本館が見つけまして。それでこうしてお連れしたわけです」
勝は父母の顔を見ると安心したせいか、父親の腰に抱きついて大声で泣いた。
「えーん、えーん」
父親が言った。
「この馬鹿者が!心配させやがって」
勝は父親にしがみついて話さなかった。母親は丁寧に警官のお礼を言っている。
警官は「それではこれで」と辞去していった。
一連の光景を見ていた一郎は、勝はもう立派な古石家の家族なんだ、ということを改めて実感させられていた。真っ先に抱きついたのが自分ではなく、父親の方だったからだ。それと同時に、この家族には自分の入る隙間もないことを感じていた。一郎は少し寂しい気持ちになった。
一郎は大きくため息をついた。そしてゆっくりと言葉を吐き出した。
「あの時かなあ。勝はもう古石家の家族で、父親は俺ではないと痛感させられたのは。それと同時に、俺も家族が欲しいと思ったよ」
それから間もなくして、一郎は涼子と再婚をした。最も心に引っかかってた勝のことがはっきりした時、一郎は家族というものに憧れを持ったのだ。ただ、恵の事だけはまだ少しだけ心に残ってはいたが、きっと恵も再婚することに反対はしないだろう、というそんな気持ちもあった。
涼子と新しい家族を作る。そう決心して結婚を決めた。
しかし、涼子は家庭に留まるタイプの女性ではなかった。家事は卒なくてきぱきとこなすので、一見すると主婦が似合っていると思われがちだが、実はそうではなかった。涼子は外での仕事に生きがいを感じるタイプだったのだ。
それ故、涼子は子供を欲しがらなかった。一郎と二人で暮らしていければよい。仕事を別々に持ち、必要な時に助け合うパートナーを求めていたのであった。
一郎がその事を知ったのは、結婚して一年が過ぎた頃であった。家族、特に子供が欲しかった一郎は、涼子の考えにはどうしても同意できなかった。一郎は、涼子と何度も話し合いをした。しかし、結局家族に対する価値観の違いは、最後まで埋まらなかった。それから数年後、残念ながら二人は離婚という選択をした。
一郎はまた一人ぼっちになった。
一郎は家族を欲していた。守るべき宝物である家族を。涼子とそれが出来なかったとき、ふと勝の顔が頭に浮かんだのだ。そうだ、勝がいたんだ。一郎の心の中に、勝の顔が大きく浮かんできた。




