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星守

十一、星守

 それからまもなく、一郎は乳飲み子の勝を連れて妹夫婦を訪ねた。妹夫婦は一郎の事情を察し、快く養子縁組を承諾してくれた。それでも一郎には一抹の寂しさがあった。我が子を手離す寂しさ。それは何とも言えぬものであった。


 「それで、一つお願いがあるんだけど…」

 話しの最後に、一郎が切りだした。


 「この星形のお守りを、勝に持たせてやってくれないか?恵の形見なんだ」

 そういって一郎は、赤い星形の陶器で出来たお守りを差し出した。星の中央には黄色い文字で「安全」と書かれている。


 「これは、恵が自分で作ったものなんだ。生まれてくる子供に持たせたいと言って。字も恵が自分で書いたんだ」


 「わかった。これは肌身離さず勝に持たせよう」

 父がお守りを握りしめ言った。


 「けれど、本当にいいのかい?勝くんを手離してしまって?」

 母が最期に問いかける。


 「いいんだ。これが勝にとって、一番幸せなことだから」

 一郎ははっきりした口調で言った。


 「それなら、勝は責任をもって私たちが幸せにするから」

 母が答えた。


 それじゃあ、とよろしくお願いします、と一郎はいい、最後に勝をぎゅっと抱きしめ言った。


 「幸せになるんだぞ。元気でな」

 一郎は勝をしばらく抱いていた。抱き終わると、後ろ髪を引かれる思いで妹夫婦の家を後にした。


 「約束を守ってくれたんだなあ。さっき、リュックについている星形のお守りを見たとき、あの時のことを思い出したよ」

 一郎は勝の背負ってきたリュックを見ながら言った。


 勝は改めて、リュックについている星形のお守りを見た。父母から肌身離さず持つようにと、学校へ行くときはランドセルに、出掛ける時はこのリュックに必ず付けていくものだった。理由までは聞いていなかったので、今初めて訳を聞き驚いていた。


 「恵が、天国から勝のことを見守っていてくれたんだなあ」

 一郎が目にうっすら涙を浮かべながら言った。勝はお守りをじっと見つめていた。

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